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「研究発表の戦略」

01: 序論

01-01: 研究における発表の位置付け

本稿では、研究発表における戦略の一例を解説する。研究発表は、論文発表と 学会発表に大別できるが、ここでは主に、学会発表について語る。しかし、そ のほとんどは、論文発表にも通用するだろう。

研究者にとって、研究発表は、余分の仕事であったり、ついでの仕事であった りする印象が強い場合が多い。

しかし、ちゃんとした研究発表を行うためには、自分の研究と正面から向き合 わなけばならない。その経験は、研究の次の段階に生かすことができる。発表 しようとすること自体が、研究活動にとって有益なのである。

では、そのメリットを充分に生かすような「ちゃんとした発表」というのは、 どういったものであろうか?

ここでは、そのための戦略として、「問題意識を軸にした構成」を解説する。

01-02: 研究における問題意識

研究を進める上で、問題意識を持っているかどうかは、研究の面白さを左右す る。問題意識のない研究は、単なる作業になる。それでは、研究の面白味が半 減する。問題意識を持って研究している人にとっては、実験なり解析なりで何 か結果を出すことは、問題の解決に近づくことを意味する。「また一歩、野望 に近づいた」という達成感があるのである。

研究というのは面白いものである。発表で問題意識を聴衆に伝えることは、そ の面白さを伝えることである。自分の研究の面白さに他人を引き込むのは、結 構楽しい経験であるし、研究の意義を再確認することでもある。

以下、そのような発表を構成する技術を解説する。発表の順に沿って書くが、 考える順番とは違うかもしれない。

02: 問題意識を軸にした研究発表

02-01: 題名 (タイトル)

発表の題名を適切に決めるのは、結構難しい。特に、発表までに数ヶ月ある段 階で決める必要があるときは、なおさらである。しかし、適切に決めようとす る努力を怠らないのがよい。

題名に含まれるキーワードは、全て、研究の意義に係わるようにするのがよい。 例えば、「超高分解能」というキーワードは、分解能が高いことが問題の解決 につながる場合にのみ題名に使うのがよい。

発表の内容を作るときに、それぞれのキーワードの意義を説明しているかどう かをチェックするとよい。そうすれば、題名に合った発表になっているかどう かが分かる。

02-02: 概要 (アブストラクト)

ここでいう概要は、講演概要集に載せるような話ではなく、論文のアブストラ クトに相当するものである。概要というのは、やったことと、その結果を、端 的に表現することである。

口頭発表の場合、概要は必ずしも必要ではない。しかし、あった方が親切な場 合も多い。

目次を紹介することで、概要の代用にする場合もある。

02-03: 背景 (バックグラウンド)

背景は、序論の一部である。

これを、単なる話の枕として使う人も多いだろう。「いきなり本題に入るのも なんだから……」といった調子である。しかし、それでは、時間を無駄にする 上に、論点がぼけてしまう。

よい研究発表では、背景の部分を問題意識の説明に使う。どんな問題を解決す るための研究なのか。何故その問題を解決しようとするのか。これまでにどこ まで解決できているのか。そういったことを、順序立てて、明確に、明示的に 示すのである。それ以外のことは、一言も言わなくてよい。

そのためには、まず、解決すべき問題を、自分の中で明確にしなければならな い。できれば、それを一言で表現してみるとよい。あとは、その意味と意義を 解説するために必要最小限な事項をピックアップし、それらをうまく配列すれ ばよい。

問題には、段階がある場合がある。例えば、最終的な目標と、今回の研究の着 眼点といった具合である。そういった構造をふまえて構成するとよい。

02-04: 目的 (パーパス)

目的も、序論の一部である。

目的の部分では、背景で提起された問題を解決するための戦略を述べる。解決 のためにどのような方法を選ぶか。何故その方法を選んだのか。それが問題解 決にどのように寄与するのか。そういったことを具体的に解説する。

背景がうまく説明できていれば、目的を述べるのは楽である。単に、背景の延 長上に置けばよい。説明が必要のことの大部分は、背景で既に説明しているは ずである。

背景と目的がうまく説明できれば、発表は半ば成功である。どんな問題を解決 するのか。何故解決するのか。どんな方法で解決するのか。それだけ伝われば よい。

02-05: 本論 (Body)

本論では、問題の解決につながることのみを述べる。苦労したことを全部話し たいのが人情ではあるが、そんなことをすれば、時間がいくらあっても足りな い。

もちろん、否定的な結果も、それが問題解決に役立つなら、発表すべきである。 それはそれで、結果の一つである。

02-06: 結論 (Conclusion)

結論部は、「まとめと展望」という形で提示されることが多い。

そこで述べられることは、何をしてどんな結果を得たか、そのことによって目 的はどの程度達成されたか、問題の解決にどのように寄与したか、残された課 題な何か、それをどうやって解決するか、といったことである。

結論は序論と対応していなければならない。そうでなければ、せっかく序論で 印象付けられた問題意識を覆すことになる。

序論と結論がちゃんと伝われば、発表は8割方成功である。逆に、序論と結論 が伝わっていなければ、本論でどれだけ頑張っても無意味である。

03: 結語

問題意識を軸にした研究発表の構成方法について解説してきた。ここで説明し たことを参考にすれば、発表の質が上がるだけではなく、発表を研究にフィー ドバックしやすくなるだろう。

より細かい技術については、ここでは説明しない。それは戦術的な話であって、 大勢に影響する度合が少ない。もちろん、発表の完成度を高める段階では、戦 術的な発想が意味を持つことになる。しかしそれは、まず、戦略面を充実させ てからの話である。

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