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「伝達型文章の作文技術」:04-01

04: 考え方

04-01: クリティカル・シンキング


「批判的に考える」とは, よりくわしく言えば, ほんとうにそうなのだろうか から始まって, ほんとうか否かをあなた自身で判断することです.
小野田博一「論理的に考える方法」

次に考えるべきことは, 書く内容の決め方である. そのときに核となるのは, 説得力のある主張の形成である. そのためには, クリティカル・シンキングの 技術が役立つ.

クリティカル・シンキングとは, 日本語では「批判的思考」といわれる, 思考 の技術である. 近代科学の思考法を, 明示的な表現で作り直したものだと思っ てよい. もちろん, 科学者にとっても役立つ. 詳しい内容は, ウェブ上の解説 を見るとよい. 多くのページで説明されている.

小野田博一の「論理的に考える方法」[1]も, クリティカル・シンキングの良 い解説となっている. ここでの「論理的」は, 「論理学的」というより, 「もっ ともらしい」というニュアンスである.

クリティカル・シンキングを使って読むときの基本は, 絶えず自分に問いかけ ることである. 「本当にそれでいいのか?」「その根拠はなにか?」と. 「批判 的思考」の「批判」に, 特に否定的な意味はない. 妥当性を確認するための批 判である. 妥当性が確認されない主張は, 保留となる. 妥当でないことが確認 された主張のみが, 否定される.

時々, 「本当にそれでいいのか?」を問うのに, 「本当にそれはダメなのか?」 を問わない人がいる. それは, バランスが悪い. ネガティブにもポジティブに も偏らずニュートラルに捉えるのが, まともなクリティカル・シンキングであ る.

自分の主張を作る際にも, クリティカル・シンキングをその主張に使うとよい. しっかりした根拠のある, 妥当な主張を作ることができる.

自分の主張は, 自分が納得するだけではいけない. 他人を納得させなければな らないのである. そのためには, 「珈琲を紅茶好きの人に勧める」ように主張 するとよい. 自分では当たり前だと思っていることでも, 他人には不思議かも しれない.

当人が当たり前だと思っていることが質問されたときに, ちゃんと答えない人 がときどきいる. 「そんな当たり前のことを聞くのは, 何か裏の意図があるに 違いない」と勘繰っているようである. これは, 行間の読み過ぎである.

当たり前のことを聞かれたときというのは, それが本当に当たり前なのかどう かチェックするチャンスである. やはり当たり前だという結論なら, 当たり前 に答えればよい. 簡単なことは簡単にすませるのが, 問題解決の常套手段であ る.

本当は, 誰からも質問されなくても, 自分の「当たり前」をチェックすべきで ある. クリティカル・シンキングができるとは, そういうことである.

しばしば問題となるのが, クリティカル・シンキングの限界である. 何でもか んでも疑えばよいわけではない. あまり極端に走ると, まともに生活できなく なる. しかし, これには明快な解決法がある. クリティカル・シンキングの技 術自体を, クリティカル・シンキングの目で捉え直すのである. これで, 実用 上問題ない程度には解決するだろう.

クリティカル・シンキングをつきつめていくと, しばしば, 常識という問題に いきつく. よって, 次は, 常識の取り扱い方を考察する.


  1. 小野田博一: 「論理的に考える方法」, 光文社知恵の森文庫 (2007年).

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