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「伝達型文章の作文技術」:04-03

04: 考え方

04-03: 正しさについて


この世の「真実」なるものはすべて, 人々の判断の集合です.
小野田博一「論理的に考える方法」

合衆国では, 真理と正義についての唯名論的な理解が通説になっている. つま り, 真であったり正義に適っていたりするものとは結局, 諸々の立場や主張が 衝突する中で交渉によって引き出されるものだというものである.
フリチョフ・ハフト「レトリック流交渉術」

・事実と真実/真理

「事実」と書く代りに, 「真実」とか「真理」とか書きたくなるときがある. そういうときは要注意である. 「事実」は客観的にあることであるが, 「真実」 はそれぞれの心の中にあるものである. 「真理」は信仰の内にあるものである.

これは, 必ずしも辞書的な意味ではない. しかし, 「何故そういう表現をした いのか?」と考えると, そのような意味合いになりそうである.

「真実」や「真理」は, 「事実」と「意見」が混ざったものであるが, 書き手 は往々にして, 「事実」の一種だと思い込んでいる. 伝達型文章では, 原則と して使わない方がよい.

・正しさ

「正しさ」の概念も, よく考えて書かなければならない. 何が誰にとってどの ような基準で「正しい」のか. 「正しい」ことによる効果は何か. そのような ことが自明でないことが, しばしばある.

何かを正しいと言うとき, 価値基準が明らかでなければ意味がない. 価値基準 を明らかにしていくと, 分かることが多い. それは, 誰にとっての正しさか. どのような場合に言える正しさか. 議論の中でどのような位置付けになるか.

単に「正しい」と書くよりも, 可能ならば個別の表現をする方がよい. 善, 正 義, 合法, 正当, 合目的, 妥当, 適切, 望ましい, 整合, 無撞着, 無矛盾など, 基準が分かりやすい表現がいくらでもある.

これらの「すべてのよきもの」を渾然一体として扱う人がいる. その場合, 主 張を解析すると, 「この主張は無矛盾であるがゆえに, 絶対的な正義であり, 真理である」となったりする. これは, もはや, 信仰の問題であって, それを 共有する者にしか説得力を持たない.

・正当化


結論を出す(下す)のは最後でなければなりません. 先に結論を下して, その後 で「なぜそうなるのかな?」と考えるのでは, 考える順序が逆です.
小野田博一「論理的に考える方法」

何かを正当化したいと思ったときは, 要注意である. 正当化というのは, 一見 すると正当に見えないことを, 正当であるように見せることである. 最初から 正当性が明らかであれば, 必要のない作業である.

正当化という作業は, あらかじめ決めた結論に合わせた根拠を探すことになり やすい. それでは, 論理形成の順番が逆である. 正当化につながる根拠だけを 採用して, 都合の悪い根拠から眼を背けることになりかねない.

もちろん, 充分に注意深く考察した上で, 正当性を確認できれば, 堂々と主張 すればよい.

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