2006年10月17日(火)〜22日(日): 入院生活

次の日からも、入院生活が続く。月曜の私の手術後に腰を骨折したおじさんが運 び込まれ、その日の夜中に外出してた先客が帰ってきたので、この病室は3人に なっている。

手術から数日は、抗生物質の点滴を朝晩した。最初のうちは、手術前に左足に打 ち込んだごつい針をそのまま使っていたが、そのうち使えなくなったので、右手 や右足などを使った。ただし、右手にするとナースコールが使えないので、一回 でやめたのだが。

かなり暇が多いので、持ってきた小説を読んで暇をつぶす。その頃たまたま読ん でたシリーズを持ってきたのだが、この選択はいささか妙だったかもしれない。 ビジョルドの宇宙もののSFで、マイルズ・ヴォルコシガンを主人公としたシリー ズなのだが、この主人公、生まれつき骨が異常にもろく、しょっちゅう骨折して いる。何度も骨折の描写を目にするはめになった。

それでも暇を持て余すので、母に紙と筆記用具を持ってきてもらい、研究を少し 進める。紙と鉛筆さえあればそれなりに研究を進められる所が、理論物理のよい 所である。(結局、そのときの計算は、のちの研究に役立たなかったけど)

手術の翌日の午後に、童顔の美女が私を訪ねてきた。といっても、病院のスタッ フである。私を担当してくれる、リハビリの先生だそうな。白衣を着ているが、 ナースキャップはかぶってなくて、下はズボンである。長い髪が肩にかかってい る。「ナースキャップをかぶっていない白衣の女性」ってのが新鮮に見えたこと もあって、思わず惚れてしまいそうだ。

早速リハビリ室に案内されて、リハビリ開始……、するかと思ったら看護婦さん が呼びに来た。レントゲンを撮るそうな。そのあと、やっとリハビリ開始。とは いっても、できることは少ない。むくんだ左手のマッサージ、肩を回す、腕を固 定した状態で力を入れる。そのくらい。会話は割と少なめだが、話題を無理矢理 探さなくてもよいような雰囲気が、なんかいい感じである。(いや、向こうがど う思ってるかわ知らんが)

リハビリのあと、もう一回看護婦さんに呼び出されて、シーネを作り直す。今ま では、あまり肘を曲げるとやばかったので、少し伸ばし気味に固定していたのだ が、少しは曲げても大丈夫になったので、90度近くまで曲げて固定する。包帯を 巻くときに、肩から肘にかけてと、肘から先は、分けて巻いた。次からは、肘か ら先だけ包帯を外してリハビリができるようにするためだ。むくみ止めのため、 手首から先も包帯をぐるぐる巻く。

翌水曜日も、午後にリハビリの先生が迎えに来てくれた。早速リハビリ室に向か おうとしたら、また看護婦さんが呼びにきた。どうもその辺は、院長先生のペー スで動いてるらしい。リハビリの先生が少し寂しそうである。所詮、僕等は、 すれちがう運命なのか。(違うだろ)

リハビリは、前回のメニューに加え、肘から先の包帯を外して肘を曲げる訓練を 行う。その前に、シーネや包帯でパンパンに膨らんだパジャマの袖を肘までまく る作業がある。が、あまりにパンパンなので、なかなかまくれない。「脱いだ方 が早いかも」と言ってみたが、何故かムキになって、少しずつまくってくれた。 リハビリは、肘を伸ばさずに曲げるだけである。肘を伸ばすと手術で止めたピン が抜けるおそれがあるが、曲げるのは、ピンが締まる方向に力がかかるので大丈 夫なのだそうだ。が、曲がらない。せいぜい、90度までである。痛みもあるのだ が、押しても曲がる感じがしない。まあ、最初はそんなものなのかもしれない。

木曜日は、お風呂。本当は火曜日も男が入る日だったのだが、さすがに無理なの で、体を濡れタオルで拭くだけで済ませていたのだ。浴場には始めて行くので、 看護婦さんに案内してもらう。脱衣所に入って服を脱ごうとしたとき、案内して くれた看護婦さんが「普通に履いて行っとったたわ」と大笑いしながら帰ってき た。間違えて、私のスリッパを履いて行ったらしい。とにかく、左腕を大きなビ ニール袋で覆って、風呂に入る。右手の届かないところは、介護のおばちゃんに 洗ってもらう。

この日は、リハビリはお休みである。午後に院長回診があるからだ。それまでも、 ちょこちょこ入院患者を診てまわってたのだが、その日のはもっと本格的である。 先触れとして看護婦さんがそれぞれの患者の資料をベッドの上の台に置いてまわ り、その後、院長先生を先頭とした、10名程度のスタッフが入ってくる。リハビ リの先生も後の方に控えていた。

院長先生の診察は、結構、容赦がない。痛いと言ってもグイグイ押してくる。ま あ、それがきっかけで、動きやすくなることもあるけど。

金曜日は通常通りのリハビリ。そろそろ、月曜日の授業が出来るかどうか気にな り始める。金曜日の授業は他の先生方が授業を進めてくれるので、少々放ってお いてもよいのだが、月曜日の授業は休んだ分だけ補講を入れる必要がある。あま り何度も補講するのは、私もしんどいが、学生も気の毒だ。

看護婦さんに退院の時期を打診してみた所、要は、私が帰っても生活できるかど うかで決まるということだ。不安がないわけではないが、まあ、なんとかなるだ ろうということで、日曜日の午後に退院することに決定。

土曜日のリハビリのときに、退院後の注意事項を聞いておく。もちろん、通院し てリハビリすることになるので、何かあれば、そのときにでも相談できるのだが。

入院費の請求書をあらかじめ貰っておく。母に電話して金額を知らせておく。同 室の患者が、金額をちゃんと確認するように勧めてくれる。確認できるところは 食事代ぐらいしかないのだが、前請求されたときに、一回分多かったそうだ。そ んなこともあるんだなあ、と思い、確認してみたら、本当に一回分多かった。手 術の日の昼を食べてないのをカウントしそこねたのだろうか? 大した額ではない のだが、気がついちまったものはしょうがない。看護婦さんにそのむね知らせる と、請求書を作り直すので、支払いは後日ということになった。

そんなこんなで、日曜日の昼食のあと、無事、退院した。


つづく