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それから、10年を悠に越える歳月が流れた。その間、行方をくらましたカールの ことは、パウルはあえて探さなかった。シュザンナのことも風の噂で聞くだけに 留めていた。

パウルの義眼の調子が悪くなり始めたころ、パウルのもとに匿名の小包が届いた。 中にあったのは分厚いファイルとメッセージ・カード。「リッター」とだけ署名 されたファイルにはラインハルト・フォン・ミューゼルに関する詳細な情報が入っ ていた。彼とはいずれ接触するつもりだったパウルにはありがたい情報だった。

メッセージ・カードに入ってたのは、カールからの遺書ともとれるメッセージだっ た。カールはシュザンナと共に滅びることを選んだようだ。満足しているような ことを言ってるが、無念は隠しようがない。結局シュザンナを救うことも、仇を 取ることも出来なかったのだから。

カール。シュザンナ。とっくの昔に忘れたはずの名前だった。しかし、いつでも 心の片隅にあった名前だ。二人を助けることは、今のパウルには出来なかった。 パウルに出来るのは、カールの作った組織の一部とカールの思いを引き継ぐこと だけだった。

義眼でも涙を流すことが出来るのだということを、パウルはその日初めて知った。


おわり