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ルドルフ大帝の時代、天才を人工的に生み出すための「猫計画」は劣悪遺伝子排除法の成立とともに打ち切られた。計画を担った科学者達は、逃げ損ねて捕まった者、逃げる過程で殺された者、無事逃げのびた者など、さまざまな運命を辿った。

捕まった者の半数は帝国に恭順を誓ったが、残りの大部分は、共和主義者の同類として処罰された。その中には、アルタイル星系第7惑星に流刑された者達がいる。

彼等は重労働の合間に、当然のごとく研究を進めていた。共和主義者に囲まれながら研究していて気がついたのは、自分達が貴族主義に毒されていた可能性だった。当初の猫計画では、血統が重視されていた。適切な交配を繰り返すことで、天才を生み出すという発想である。そもそもがルドルフの提案で始まった研究とはいえ、やはり、貴族を正当化する方向に偏っていた。

もちろん、血統(もしくは遺伝子)を無視することはできないが、教育も重要なのではないか? むしろ、教育に重点を置いた方が定常的に天才近似値を生むことができはしないか? 彼等の興味は、そちらの方向へ傾いた。

問題は、その教育方法であった。普通の人に通常の教育を施しただけでは、平凡な人材が育つだけだ。どんなタイプの人間にどのような教育をすれば、天才もしくはそれに近い者が現れやすいのか? そもそも、天才を識別する方法はなにか? 自分達自身に適用しながら、実験・観測を続けていた。


つづく

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