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ショック法の最大の成果は「七三〇年マフィア」であった。特にブルース・アッシュビーは、〈ハトゥール〉が当時までに創りあげた中では、最高の天才であった。しかし、人格のバランスを欠いたアッシュビーは、その絶頂期に同僚との不協和音を生じ、謎の死を遂げた。そこで〈ハトゥール〉は方向転換を図った。

同時に、自らの権益のために政治を積極的に操作するようになったトリューニヒト家と、距離を置くようになった。〈ハトゥール〉が過度に政治的になれば、研究の純粋性が失なわれ、天才の方向性が歪むと考えたのだ。そのため、トリューニヒト家が我流のショック法でヨブという怪物を創り出したことについては、〈ハトゥール〉の直接の関与はない。

しかし、ショック法の代りになる方法は、なかなか見つからなかった。ルドルフともアッシュビーとも異る天才。リン・パオやユースフ・トパロウルは参考になるかもしれないが、そこに〈ハトゥール〉の関与はない。彼等が何如にして特異な才能を発揮し得たのかは、後付けの研究以外に推測する術はない。

暗中模索する彼等の中で、一つの噂がささやかれるようになった。

「変人の中の変人が天才を生む」

それは、理論には拠らない、直感であった。


つづく

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