02)

ハイネセンに到着して、トムを探した。ハンスの情報をもとに探すと、あっさり見つかった。動きがしなやかな、物腰の柔らかい若い男性だった。

エミーのいささか要領を得ない説明を聞いたトムは、店を出すことをすすめた。飲食店で、アルコールも出すような店。アルコールは人の口を滑らかにする。その断片から情報を読み取るのは、多少の技術があればできる。しかも、生計を立てながら、無理なく探せる。

「店の名前は、探してる相手が目を引くものにするとよいですよ」

そんなアドヴァイスを受けて、店名は「カッツェ」にした。

場所と活動資金はトムが用意してくれた。家賃はきっちり取るし、店が軌道に乗れば、資金を少しづつ返してくれればよいとのこと。

しかし、妙な条件もあった。店の二階にある男を住ませること。この男については一切口外しないこと。素性を詮索しないこと。ちょっと気味が悪かったが、秘密を持った生活は慣れている。

紹介されたのは、気の弱そうな若い男だった。トムからは、「我々とは、まんざら関係がないわけではない人」という説明があっただけだ。「我々」というのが誰のことかも説明されなかった。男が部屋に入った瞬間、エミーはその存在を忘れることにした。


つづく

[目次へ戻る]