8)

「この男はバカだ」

ロイエンタールが叛乱を起こしたときにヨブはそう思った。

叛乱を起こしたこと自体にではない。自分の誇りに足元をすくわれ、罠からの脱 出を選択し得なかったことにである。

だから、ロイエンタールが敗れて瀕死の重傷を負ったことも当然の結果だと考え ていた。

ハイネセンに帰って来たロイエンタールがヨブを呼び出したことは多少意外では あった。

しかし、対面してみると、ロイエンタールの顔に明かな死相が表われているのを 見てヨブは安心した。ヨブにとってロイエンタールは既に死者であり、死者はヨ ブと何の利害関係もないはずである。

安心したヨブはいつになく本音に近いことを話していた。どんなことを話そうと も、利害関係を持たぬ死者がヨブに対して害を与えることはないと思っていた。

そう、自分の胸に穴が開くまでは。

「俺はバカだ」

そのときヨブはそう思った。


おわり