「ヨナ書」

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ヨナという名は古代の聖典に登場する預言者の名に由来すると教えられた。

僕が自分の名の出典となった「ヨナ書」という物語を初めて読んだのは、十五歳 の春だった。父の勧めだった。父も十五歳の頃に自分の名の由来を調べて、それ が大人への階段を登るきっかけになったそうだ。

「これは僕だ」

その物語を読んで僕はそう思った。

そこに書かれていたのは、自分がやるべきことから逃げて怪物に飲み込まれた男 の物語だった。

その怪物は一説によると鯨だという。鯨というのは古代の地球に住んでいたとい う巨大で美しい生き物だ。それは父だ。

その頃の僕は父の正体に気付かず、ただただ父の巨大さや美しさに圧倒されてい た。飲み込まれていたと言っても過言ではなかった。

物語のヨナと違って、僕は自分のやるべきことが何なのかは知らなかった。


つづく