8)

「かけあい漫才の途中、申し訳ありませんが」
第一艦橋の正規オペレーターが割り込んできた。第二艦橋にいたオペレーターと 全く同じ口調だった。
「敵襲です」
艦橋内に緊張がみなぎった。
「護衛艦隊からの報告によると、敵艦隊は戦艦一、巡航艦二、駆逐艦一〇。通路 中央から真っ直こっちに向かってます。有効射程まで推定二〇分」
「予想時間丁度とは律義なやつらだ。しかし、戦艦がいるのか? 困ったもんだ」
「勝てるでしょうか?」
「ま、あの程度ならなんとかなるだろう。ティーデマンを呼び出せ」

「おう、学者先生か。こっちは忙しいんだ。後にしてくれ」
ティーデマンは闘志満々だった。
「前に出過ぎるな。工作艦部隊の上につくんだ」
「俺に任せるんじゃなかったのか?」
「任せたらどうするつもりだった?」
「知れたことよ。玉砕覚悟で正面から突っ込む」
「あほう。貴官等が玉砕したら誰が我々を守る。向こうは戦艦がいるんだろう?」
「あほうはねえだろう。で、学者先生には名案があんのかい?」
「ある。こういうこともあろうかと思って、新兵器を用意しておいた。見えない 機雷だ」
「なんだそりゃ?」
「指向性ゼッフル粒子の雲だ。あとで諸元を送る」
「使えんのかい?」
「目眩ましにはなる。射程ぎりぎりで敵さんの鼻面で点火しておいて、その隙に 護衛艦隊と動ける工作艦が突っ込んで一斉にぶっぱなす」
「工作艦が突っ込んでどうする。足手まといだ」
「一回限りとはいえ三〇門近くのレール・キャノンだ。戦艦を集中攻撃すれば落 ちるぞ。巡航艦二隻と駆逐艦四隻で敵巡航艦の一つを、巡航艦一隻と駆逐艦八隻 でもう一隻の敵巡航艦を一斉攻撃する。その後、工作艦は離脱して護衛艦隊で各 個撃破。どうだ?」
「……いけそうだな」
「よし。後で友軍全体に指揮権の委譲を放送するから、その後の戦闘は貴官が指 揮を取れ」
「俺が指揮をとるのか?」
「あたりまえだ。何のための戦闘のプロだ」
「了解。データを送ってくれ」
「すぐに送る。それからな」
「何だい?」
「私を先生と呼んでいいのは、私の教え子だけだ。覚えとけ」
「へいへい。受け賜わっておきましょう、セ・ン・セ・イ。通信終り」

「意外にかわいいやっちゃな」
「か、かわいいですか?」
「そんなことよりもだ、各所に指示を伝えろ。放出装置は二〇分停止してそのあ と微速で放出、放出装置につけた二隻は少し離れてそれぞれの放出装置の鼻先に 照準を合わせて待機。こちらからの命令があれば直ちに打つが、命令がなければ 決して打つなと伝えろ。この二隻はティーデマンの指揮下に入れない。『見えな い機雷』の最初の点火はファゾルトがやる。あと二隻の航行不能艦は予備だ」
「了解。放出装置は爆破させるおつもりで?」
「どうせ敵さんもすぐに開発するんだろうが、『敵の手に渡すぐらいなら爆破し ろ』とシャフトの大将がうるさいもんでね。まあ、爆破しなくてすめばそれにこ したことはない。あ、動作記録をぎりぎりまでこっちに転送させてね。せっかく 通常動作以外の使い方したんだから、データは取っとかなくちゃ」
「はい。しかし、放出装置を爆破せざるを得ない状況で本艦は無事でしょうか?」
「どこへも送り先がないんだからしょうがない。それに、本艦が無事じゃなくて も、第一艦橋が無事ならいいんだ」
「それは、どういった…」
「いざとなったら本艦の本体との接続を爆破して第一艦橋だけで漂流する。なに、 味方が救助に来るまで胡麻化せればいいんだ」
「ああ、第一艦橋を再接続したのは、そこまでお考えになって…」
「ないよ。こっちの方が広いじゃない」
「は、はい、たしかに」
「さて、そろそろ演説の用意しなきゃな」

クラウスニッツはすっくと立ち上がった。
「友軍に向けて放送の用意をしろ。通常回線でよい。暗号化も不要だ」
そういってマートブーホを振り返り、クラウスニッツはにやりと笑った。


つづく