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話は二週間前に遡る。オーベルシュタインがキルヒアイスに面会を申し込んだ。
「我々が入手した情報によると、貴官の計画している輸送作戦が妨害される危険 性がある。充分に注意されたい」
「どのような妨害がどの程度の規模で行なわれるか分かりますか?」
「おそらく一〇隻を大きく超えない戦闘艦艇による輸送物資強奪」
「信憑性は?」
「密告によるものだからそう高くはないが、何らかの妨害があることはほぼ確実 だと判断している」
「密告……ですか」
「『帝国の盾』を名乗る大貴族の犬どもが下部組織の暴走に恐れをなして切捨て にかかった、そういうことだろう。だからと言って看過し得ることではなかろう から対策を立てて方がよい」
「御忠告感謝します」

そりの合わない自分にわざわざ忠告してくれたのは何故だろうと疑問に思ったキ ルヒアイスだが、それを面と向かって問い正すことはできなかった。味方ではあ るので情報提供があっても不思議ではないことと、それなりの対策をとることの デメリットが思いつかなかったことで、キルヒアイスは護衛艦隊の護衛艦隊を組 織することに決定した。そして、その艦隊の指揮をティーデマン大佐に依頼した。

キルヒアイスが技術士官を一般士官に転科させようとしていることはオーベルシュ タインも知っていた。今度の輸送計画で護衛艦隊の指揮を取るのがその士官であ ることも。オーベルシュタインはキルヒアイスのそういった、いわばイレギュラー な行動を助長させることでキルヒアイスの自滅を促進させようと図っていたのだ が、神ならぬキルヒアイスがそのようなことを知るよしもなかった。


「病院船まで連れてきてくれて、本当に助かったよ、ティーデマン」
「おやすいごようでさぁ」
「マートブーホ、味方の被害の概算は?」
「撃破されたのは駆逐艦二隻だけですが、本艦も含めて約半数の艦が被弾してま す。死者は二〇〇人程度、負傷者は五〇〇人には達しないようです」
「やれやれだな。戦力比から考えて、これでもうまくいった方だと見るべきだろ うけどね。とにかく、人を貸してくれ、ティーデマン。死傷者の穴埋めに使う」
「合点」
「それから、負傷者の収容と被弾した艦の応急処置が済んだら出発だ。そのとき はマートブーホが適宜指示を出せ」
「了解。司令官どのは?」
「寝る」

「たとえ勝ったところで、敵も味方も殺しまくってることには変わりはないんだ。 学費の返済が免除されるまで働いたら、こんな仕事はさっさと辞めたいもんだ」
ベッドに横たわりそうつぶやいたクラウスニッツは、つぶやき終えたときには眠 りに落ちていた。


第三部へつづく