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それから間も無く、第一三独立分艦隊は本格的な活動を始めた。

最初に始まったのは、クラウスニッツの乗艦である戦艦ローゲとティーデマンの 乗艦である戦艦エルザの改造である。両艦とも通常の戦艦なのだが、通信機能と 情報処理機能を強化して旗艦として使いやすくしようというのだ。ローゲだけで なくエルザも改造するというのがクラウスニッツの構想のミソである。これによっ て分艦隊を二つに分けた運用が容易になり、選択の幅が広がる。

ローゲ改造の指揮を取っているクラウスニッツは、その合間に航法担当士官との 打合せを繰り返し、さらにマートブーホとウィルソンの演習スケジュールの立案 にも口をはさむという忙しさだった。進軍中の改造であり、その後には進軍中の 演習が控えているのだ。クラウスニッツは人が変わったように働いていた。

「マートブーホ、新機能のマニュアルができた。一通り目を通しておいてくれ」
「こんなものまで作ってたんですか。タフですねえ。いつ寝てるんですか?」
「普段」
「……」

とにかく、予定通り改造は三日で終わり、引き続き演習を行なった。かなりハー ドな内容であったが、ローゲとエルザの機能強化が効を奏し、たいした事故は起 らずに済んだ。

「何とか終わりましたねえ。実戦よりハードじゃないですか?」
「あたりまえだ。練習のときに限界までやっとかないとコーシエンではその半分 も実力が出せないからな」
「何ですか、そのコーシエンって?」
「知らん。古代地球の極東地区でそんな言い回しがあったらしい」
「何で知ってんですか、そんなこと?」
「いや、まだガキの頃にフェザーンに旅行したことがあってな。そこで知り合っ た、ウォンリーだかウェンリーだか忘れたけど、そんな名前のガキに教えてもらっ たんだ。妙に歴史に詳しい奴でね」
「フェザーンの人なんですか?」
「さあな。そんなことはどうでもいいから、ティーデマン呼び出してくれ」
「了解」

「ティーデマン、そっちの調子はどうだ?」
「改造した所は問題ない。ただ、エンジンのふけが悪くてなあ」
「そうか。じゃあブルクをしばらく貸しとくから何とかしてくれ」
「助かる」

こうして無事演習を終えたクラウスニッツはたっぷり休養をとった後、通常任務 に戻った。


つづく