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「私の騎士になって」

昔、シュザンナにそう言われて以来、俺は帝国騎士(ライヒス・リッター)ではな くシュザンナ個人の騎士だったのかもしれない。リッター。それはシュザンナと 二人の間だけで通じる、俺の仇名だった。今でも俺は、あの頃のシュザンナに仕 える騎士なのだろうか? 激務の合間に、ときにはそんな疑問を持った。しかし、 感傷にひたってる暇は、あまりなかった。

ひたすら情報を集めているうちに、興味深いことが分かった。グリューネワルト 伯爵夫人の弟、ライハルト・フォン・ミューゼルが極めてユニークな人物だとい うことだ。最初は、俺と似たような立場の男として同情していたのだが、どうや ら俺の同情など必要としない程の傑物のようだ。皇帝の近くに強力なコネがある だけでなく、軍人としても優秀なので、どんどん出世している。

それに、ベーネミュンデ侯爵夫人(もうシュザンナとは呼べない、もうシュザン ナとは呼ばない)の度重なる策謀を彼は切り抜けてきている。さりげなく情報を 歪めることによって未然に防いだものもあるのだが、カチェプランカやイゼルロー ンまでは私の手は届かない。どうやらその手のことが起ったらしいという情報が 後から入ってきた。どうやって切り抜けたのか分からないが、とにかく彼は生き 残った。

それ程の才幹を持って、着々と立場を強めている者がいるということは、帝国に とって脅威である。彼に姉を奪還する意志があれば実力をもって行なうだろうし、 その意志が無くとも、帝国に自他共に認めるナンバー・ツーが早晩現われること になる。そんな訳で、俺はここ数年、彼に肩入れしている。

気になる点と言えば、出世するにつれて敵が増えるのに比べて、味方がなかなか 増えないことだ。赤毛の友人は確かに有能だが、味方が一人だけではどうしよう もないだろう。彼の味方になりそうな人物をリストアップするのは簡単だが、問 題はどうやって彼の味方にさせるかだ。

そろそろパウルの行方に注目し、連絡を取るべき時が来たようだ。


つづく