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俺は複数の独立した組織を作り、これを情報網として使った。マイセンのオーディ ン共和戦線を始め、中級貴族連絡機構、帝国の盾、奴隷解放同盟、ヴァルハラ革 命軍、などなど。これらの組織は主義も目標も全く違うのだが、情報が全て暗号 名リッターで表わされる人物に渡され、時にはリッターから情報をもらうことだ けは共通している。当然、どの組織も他にリッターと継がってる組織があるとは 思ってないし、リッターの正体が俺であることを知るものはほとんどいない。

俺はそれらの組織を作るときに細かい指示は出していない。どんな集団でも2%程 度以上いる落後者や不平を持つ連中の中からカリスマを持つ奴を選び、そいつの 気に入るようなビジョンと実現可能に見える計画を吹き込んだだけだ。それで失 敗するような組織には用がない。

情報網をこのように作っておくことの利点は、まず、多角的な情報が入ってくる ことだ。それぞれの組織がそれぞれの動機で情報を集めるから、情報が質的に多 様だし、一つの事実を多方面から捉えた情報を入手出来る。

また、一般の人々の想像に反して、非合法活動を含む組織はその規模に比例して 多数の合法組織を必要とするものだが、その規模が大きくなるにつれて資金の流 れから発覚しやすくなる。その点、俺の組織群は一つ一つの組織の規模が小さい ため発覚し難く、たとえ一つが発覚したところで他に影響を及ぼし難い。

欠点は、派手に動けば末端組織がからくりに気付く可能性が高いということぐら いか。

一年余りかかって、情報網が順調に稼働し始めた頃、シュザンナ懐妊の報が入る。 シュザンナがあの男の子供を生むのは耐え難いことだが、俺が動くまでもないだ ろう。それよりもシュザンナ自身の身に危害が及んではならない。ここは子供を 犠牲にしてでもシュザンナを守る方策をとるか。

赤子は代わりがいないがシュザンナの代わりなどいくらでもいる、シュザンナを 害することはリスクの割に効果がない、そう念を押しておこう。もちろん、念を 押す相手は皇帝の二人の娘とその夫達、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイ ム侯の両夫妻であるし、それは匿名の誰かからの忠告として彼等の耳に入るだろ う。

こうして起るべきことは起り、起るべからずことは起らなかった。その後は同様 な事態に手出しする必要はなかったし、その他の本質的な進展も無かった。

次の展開の小さなきっかけが起ったのは、数年後のことだった。


つづく