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愚行だったクロプシュトック侯の反乱と愚行に愚行を重ねた討伐も、一つだけ良 い結果を残したようだ。ロイエンタール少将とミッターマイヤー少将がミューゼ ル大将の味方になった。両少将は共に軍人として有能である上に、ロイエンター ル少将は大貴族の様子をよく知ってるはずだ。ベーネミュンデ侯爵夫人に対抗す るのが少しは楽になるだろう。メックリンガー准将もミューゼル大将にアプロー チを始めたようだ。

しかし、いいことばかりは続かない。味方を得たミューゼル大将がベーネミュン デ侯爵夫人に対し反撃に出たのだ。あらかじめ噂として流しておいた宮廷医師グ レーザーの動向はロイエンタール少将の耳に入っていたため、それを挺子にして いるようだ。そのこと自体は当然のことなのだが、これが成功するにはもう一波 乱必要で、そのときが一番危険なのだ。

しかも、侯爵夫人が最近雇った傭兵の中に特殊部隊あがりの狙撃のプロがいる。 シェーンベルク。奴の狙撃を一度だけ見たことがある。雨の中を走る車の後部座 席に座っている三人。その真ん中だけをきれいに打ち抜いた。俺も射撃の心得が あるだけに、奴の恐しさはよく分かる。

おそらく、ベーネミュンデ侯爵夫人は、シュザンナのぬけがらは、遠からず激発 する。あらゆる情報がそれを示している。これを止めることは出来ないし、また、 止めるべきではないのだが、最初の一撃はなんとしても外さなければならない。 あとはミューゼル大将とその仲間達がうまくやってくれるだろう。

最初の一撃を外す方法は一つしか思い浮かばなかった。俺が傭兵隊に入り、シェー ンベルクより先に引き金を引くことだ。初弾をはずせば、後はなんとかなる。

傭兵隊に潜りこむ工作でリッターの正体がばれる可能性がかなりある。それを防 ぐ処置をしたところで、せいぜい数ヶ月先に延ばすのが精一杯だ。いずれにして もリッターの組織は終る。それなら、積極的に解体した方がよさそうだ。どうせ、 がたついてきたところだ。

パウルは宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥の副官から、統帥本部情報処 理科に転属になったという。奴に収集・分析した情報の主要な部分と一部の組織 を引き渡しておこう。残しておくと危険な組織には「時限爆弾」を仕込んでおく。 数ヶ月以内に自滅するだろう。他の組織は、生き延びる力があれば生き延びれば よい。

この作戦では、少なくとも一時的には、ミューゼル大将、シュザンナの傭兵隊、 警察の全てを敵に回すことになる。おそらくリッターの組織の一部も。そろそろ 年貢の納め時かな? よかろう、これでシュザンナも滅びることだし、一足先に地 獄に落ちて、彼女を待つとしよう。

この結末には結構満足している。シュザンナが滅びるのを見なくて済む上、新し い帝国の誕生に一役買うことが出来るのだから。パウル、後は頼んだぞ。
ジーク・ノイエ・ライヒ。


おわり