8)

その後、フォン・ラーケンの行方が杳として知れなかった。どうせ偽名だろうか ら探すのは難しいし、苦労して探すメリットも無かった。

猫の行方も分からなかった。誰にも頼らずに一人で探しているのに見つかるはず もなかった。心の中にあこがれだけが広がっていった。

いつまでも呆けている訳にもいかないので、フリーの狙撃手としていくつかの組 織の依頼で仕事をするようになった。しかし、あれ以来どこの組織も心なしか情 報収集力が落ちていて、安心して仕事をできる状態ではなかった。それに、狙撃 を完遂できなかったことが一度もなかった俺にとって、金髪の儒子のことはいつ も心の片隅に引っかかっていた。

そこで俺は、金髪の儒子の最も大きな敵であるブラウンシュヴァイク公の私兵に 身を投じることにした。あの失敗した襲撃から一年余り経った頃のことであった。

今度の直属の上司はフェルナー大佐という人だ。いつもずけずけとした物言いで 部下から嫌われていたが、それが大体において正論だったのでますます嫌われて いた。しかし、尊敬されてもいたのは事実である。上官に対してもあの物言いだ と命がいくつあっても足りないと俺などは思うのだが、上下の隔てなくあの言い 方だということが次第に分かってきた。よく無事でいられるものだ。

やがて、皇帝崩御。帝位継承者がまだ決まってないことや、誰が継ぐのか議論の 余地があることから、かなりのごたごたが起こるだろうということは俺にでも分 かる。このどさくさに紛れて金髪の儒子の狙撃ができないものかと思いながら、 俺は訓練と武器の整備に励んだ。

「命令系統上の問題」とやらで中尉に昇進した俺は、第一独立小隊の小隊長となっ た。部下の一人もいない小隊長ではあったが。


つづく