「レトリック流交渉術」

フリチョフ・ハフト著 服部高宏訳
木鐸社 レトリック研究会叢書3 ISBN4-8332-2175-6

交渉術の話だが、問題解決一般に通じる話も多いし、交渉を意識しない議論にも 役立つ本である。

原題は「Strukturdenken」で、「構造的思考」のことのようである。古典的な意 味のレトリックや現代的な意味のレトリックに通ずるものはあるが、通俗的な意 味での「レトリック」に頼る交渉術の話ではない。

この本では、「構造的思考」を基本戦略に、「問題本位型思考」と「妥協的思考」 を補助戦略に取って、交渉を進める方法を解説している。

「構造的思考」は、問題を次の4つの階層に構造化する。

  1. 屋根概念: 解決すべき問題のテーマ
  2. 主導的概念: 種々の立場
  3. 主要観点: それぞれの立場の中心的な観点
  4. 個別論拠: それぞれの観点の個別な論拠

下位の概念より上位の概念の方が重要である。例えば、問題のテーマに同意が得 られてない段階で個別論拠を論じるのは全くの無駄である。

問題本位型思考は、人物の件と懸案の問題とを区別し、懸案の問題の方に集中す るというものである。人物を攻撃しない、問題点を明確にするなどの方法を通し て、問題自体に集中しやすい状況を作る技術が紹介されている。

妥協的思考は、ハーバード流交渉術などで「パイを広げよ」といったキーワード で表わされるものと同様の技術である。視野狭窄に陥いって二者択一的になるの ではなく、第三、第四、第五の選択肢を見つけ、あらゆる可能性を尽すことで、 最も妥当な選択を行う。

この本の特徴は、ハーバード流交渉術と類似の概念である「問題本位型思考」と 「妥協的思考」を、より基本的な戦略である「構造的思考」を持ち込むことによっ て強化している点にある。この考え方は、交渉、議論、問題解決などに役立つで あろう。

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