「あっれー? まだ生きてるじゃん。なんで、こんなとこ来てんのぉ?」
「なんでって……、ここ、どこ?」
「ああ、分かんないで来ちゃったんだ。たまにいるのよねー、そーゆー人。ここ
はねえ、霊界よ。レ・イ・カ・イ」
「霊界? いわゆる死後の世界ってやつ?」
頭の中で丹羽哲郎がサンバを踊っていた。
「まあ、いいや。折角だから、この辺案内してあげる。心配しなくても朝までに
は帰れるから。……多分」
「多分てなんだよ」
「あ、私ね、民谷岩。岩ちゃんって呼んで。シュワちゃんじゃないわよ。けらけ
らけら」
「民谷岩って四谷怪談の? あっかるいお岩さんだなあ」
「ひょっとしてこんなのを期待した?」
そういって岩ちゃんは右腕を顔の前で下から上へ振った。染みひとつ無かったは ずの顔の右半分はあばただらけになり、右目は大きく腫れ、髪は抜け落ち、異様 な面相になった。伝統的なお岩さんの姿である。
もう一度、今度は上から下へ腕を振ると、さっきのかわいらしい岩ちゃんに戻っ た。
「年季の入った霊って、姿なんてどうにでもなるのよ。なら、こっちの方が目に 心地いいじゃない」
唖然としながらも、僕は突っ込まざるを得なかった。
「お、おまえは大魔神かっ!!」