「あなたが〈猫〉だったのですね」
そう言ったのは、自らも猫と呼ばれる美しい女性だった。その目は驚きに見開かれ、その口元は喜びに満ち溢れていた。
「我々はハトゥールと呼んでます。失なわれた古い言葉で猫を意味します」
少し照れたように答えたのは、黒衣の男性だった。そのしなやかな動きは、猫科の猛獣を連想させた。
「思いもしませんでしたわ。男の〈猫〉なんて」
「帝国の〈猫〉とは別の道を選びました」
そう言った男は、少しだけ姿勢を改めて、女と向き合った。
「それで、どうなさいますか?」
「どうするもなにも、この店はなくなってしまうんでしょう? 連れて行ってくださいな」
女はちょっと笑って言葉をつないだ。
「でも、事情はちゃんと聞かせてくださいね」
「さて、どこから話せばいいのやら、……」
「それでは、そもそもの始まりから」