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ヨブの心の亀裂は時と共に徐々に大きくなっていった。あるときは自分のバカ正 直さにうんざりし、別のあるときは自分の狡猾さがいやになった。

そんなヨブに一つの転機が訪れたのは国立中央自治大学に進学してからのことで あった。

「政策論」を受講したヨブはその講義に強い興味をもった。同時にその教授にも 興味をもった。

オリベイラというその若い教授の主張は基本的にはマキャベリの「君主論」に遡 る。国民の幸福のためには賢い政策が必要であり、賢い政策を選択するにあたっ ては道徳に縛られる必要はない。しかし、道徳的であるという見せかけは必要で ある。おおむねそのような主張である。

オリベイラの授業の著しい特徴は、賢い政策を実行するためには強力な権力の掌 握が不可欠であるとした上で、権力の掌握とその保持のための技術を体系的に講 義していったことである。そして、その内容は道徳とも倫理とも何の関係もなかっ た。

ヨブの中の狡猾な部分---あの十五の春に生まれた部分---は、それらの技術に強 く魅かれていった。やがて、その応用として、自分自身のバカ正直な部分を自分 の利益に結びつける技術を修得した。

大学を卒業して義務として一時的な兵役に就くころにはヨブの純真さは演技でし か表面に表われなくなっていた。


つづく