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「そろそろだな」
時計を見て起き上がったクラウスニッツは、激しい衝撃に転倒する羽目になる。
「なんだ? 何が起こったんだ?」
打った腰をさすりながら立ち上がったクラウスニッツはあたりを見渡した。部屋
の中は地震の後のように物が落ちたり倒れたりしていることを除けば、特に異常
はなかった。ふとモニターに目をやると、そこには何も写ってなかった。ついさっ
きまで、第一艦橋の様子を写していたモニターである。
そこへ、通話要求が割り込んできた。要求を受理すると、若い士官がモニターに
現われた。
「クラウスニッツ技術中佐どの。工作艦部隊次席幕僚マートブーホ中尉でありま
す。申し訳ありませんが、至急、第二艦橋におこしください」
「分かりました。すぐに行きます」
そう答えておいて部屋を出たクラウスニッツだが、一体何の用だろうかと頭をひ
ねった。
残留ゼッフル粒子のせいで放出装置に引火し、爆発した。その爆発が周囲の工作 艦に衝撃を与えた。そこまではまず間違いないだろう。しかし、それだけのこと なら「優秀な」軍人達が事後処理を行なうだろう。危機管理などそれこそ管轄違 いのクラウスニッツが呼出される筋合はない。しかも、何故「第二」艦橋なのか?
そこで、クラウスニッツは、この艦の構造を思い出した。工作艦ファゾルトは、 通常の軍用工作艦を部隊指揮を取れるように改造した工作旗艦である。そのため、 外付けの第一艦橋と通信ブースターを取り付け、本来の艦橋を第二艦橋としてい る。両艦橋のコンピュータは最新のハードウェアと特化されたソフトウェアを揃 え、通常工作艦に比べ通信機能、情報処理機能を共に一〇倍以上に引き上げてい る。
しかし、外付けの第一艦橋は工作艦本体との連結がやや弱く、強い衝撃を受ける と外れてしまう可能性がある。しかも、生命維持装置は充実しているので直ちに 死ぬわけではないにしても、第一艦橋自体には無線通信装置はなく、本体との間 のケーブルが切断されると情報的に完全に孤立してしまう。この、軍用艦にして はにわかに信じられないほど脆弱な設計のため、技術士官仲間で外付け艦橋は 「空飛ぶ集団墓地」と称されている。
第一艦橋を写していたはずのスクリーンが消えたこと、第一艦橋でなく第二艦橋 に呼出されたこと、呼出した相手の階級が中尉だったことから、クラウスニッツ は、呼出された目的を推測した。何といっても、ファゾルトの指揮能力は、第一 艦橋なしでも通常工作艦の三倍はあるのだから。