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第一三独立分艦隊は三箇月足らずの間に数十の作戦に参加した。あるときは単独 で、あるときは本体の一部として。強行偵察として敵軍の真中に突っ込んで行っ たこともあるし、敵軍をおびき出す囮になったこともある。

それらの作戦を通しての被害は軽微であり、艦隊の動きは目に見えて良くなって きた。このころがクラウスニッツの艦隊指揮の能力を完全に開花させた時期と言 えるだろう。通称クラウスニッツ分艦隊は、文字通りクラウスニッツの手足のご とく動く戦闘集団になっていた。

そんなクラウスニッツに新たな命令が下されたのは七月の初めである。それは、 第一三独立分艦隊単独でローエワルト伯爵の勢力拡大を阻止せよという命令であっ た。

ローエワルト伯はブラウエベルク男爵と同盟を組み、自領に隣接するヒルデスハ イム伯領を武力制圧している。会戦初期に当主を失なった星域をどさくさに紛れ て接収し、辺境に第三勢力を作ろうと目論んでいるのである。ヒルデスハイム伯 領は巨大な造船工場と農業惑星を複数有しており、放置しておけば無視し得ない 勢力に発展するおそれがある。

さらに、ヒルデスハイム伯領の向こうにはシュタインメッツ中将の勢力圏である。 この両者が敵対したらしたで、同盟を組んだら組んだで、どちらにしてもやっか いな事態になる。敵対すれば辺境の治安が悪化するし、同盟を組めば第三勢力と して安定できるほどの力を持ってしまう。

この動きは早急に手を打っておかないと時間が経てば経つほどやっかいの種に発 展していくのである。

ところが、キルヒアイス艦隊はキフォイザー星域に向かいリッテンハイム軍を撃 破する任務がある。これは最優先事項であるし、規模から言って多くの兵力をロー エワルト軍に裂く余裕はない。そこで、最小の戦力でローエワルト軍に対処し、 残りはキフォイザー星域に向かうことになったのである。

こうしてクラウスニッツは本体のバックアップ無しに敵を攻略することになった。


つづく