3)

「夢物語に金を出させるには、まずは、堅実な実績が必要だ」

軍に協力を仰ぐ際に考えたのは、そういうことだった。

そのためには、クラウスニッツ・システムの運用についてコメントするのが最も近道だった。クラウスニッツ・システムというのは、艦隊単位で効果的に集中砲火を実行するためにクラウスニッツが考案したアルゴリズムのことである。考案者が失踪したあと、それが有効に活用できてないことは知っていた。その原因も当座の解決方法も見当がついていた。軍からアドバイスを求められてもいた。

しかし、ブルクは、クラウスニッツを追い込んだ軍を信用していなかった。効率的な攻撃のためのシステムを軍に提供することに、ためらいがあった。

結局、ブルクは、クラウスニッツ・システムのサブセットを提供することにした。迎撃システムの効率化である。対艦ミサイルを迎撃する際に、どのミサイルにどの発射管から何発射てばいいのか。その最適な選択を自動的に決め、その戦果に応じてさらに最適化を進める。相手がミサイルだと単純なシステムで済み、運用に迷いが生じることはない。しかも、攻撃力でなく防御力を強化するという点で、ブルクには妥協可能なものであった。

このシステムを採用すれば、迎撃率はただちに七%向上し、実戦で使うことで、一年以内に現状に比べて二十一%向上するだろうという予測を添えて意見書を提出すると、軍で実験が開始され、その成果が認められた。

その結果、老朽駆逐艦一隻と退役軍人・予備役軍人、予算および物資が提供された。急ピッチで実験装置が組み上げられた。研究所員は実験を担当し、軍人は艦の運用をすることが定められ、その全てを統括する実験団長に、ブルクは自分自身を任命した。


つづく

[目次へ戻る]