「これは、カオスだな」
実験を繰り返したブルクは、そう判断した。
カオスというのは、初期値の微小な違いが結果の大きな違いを生む現象のことである。蝶の飛び方次第で、惑星の裏側で嵐を起こすかもしれない。そういった現象だ。
さらに、四次元距離特有の事情もある。真っ直ぐ過去に二百年と同じ四次元距離の跳躍の中には、時間で一万年・空間で一万二光年というケースも含まれる。三次元的な距離とは事情が違うのである。
そういった微妙な状況で実験を繰り返すこと一ヶ月、とうとう、一万二千年前の銀河中心部に辿りついてしまった。
そして、……。時空点の詳細な情報をブルクに伝えたマーフィー主任技術員は、淡々とした口調で補足した。
「一ギガメートル先に金属反応があります。反応の強さからいって、帝国軍の戦艦程度の規模です」
日常的な感覚では、百万キロメートルというのは途方もない距離である。しかし、宇宙空間においては、わずか三光秒、目と鼻の先である。こんな偶然があっていいのだろうか? 唐突に捜索が完了してしまったかもしれない期待と不安に震えながら、ブルクは指示を出した。
「慎重に、近寄ってみよう」