7)

「すごいハックですね。こんな見事なハック見たことないです」

いつも冷静なマーフィーが珍しく興奮気味に言った。

「そうだね」

と、どこか上の空で返したブルクは、前半部分に答えたつもりだった。

ハックというのは、有り合わせのハードウェアなりソフトウェアなりを組み合わせてその場限りの何かを創りあげる技術のことである。士官学校技術研究科で流行った遊びが原型だ。いたずらから始まった技術であることや、教科書的ではないこと、ときには行き過ぎた行動に走ってしまうことなどから、教官や上官は眉をひそめることが多いが、学生や若い技術士官の間ではハックするのが当然で日常だった。特に優れたハックをする者は「ハッカー」と呼ばれ、尊敬されていた。

ローゲの機関部には、ハックされた形跡があった。明らかに標準的な機関部では有り得ない剥き出しの配線、正体不明の機械、取ってつけたような操作卓、……。どうやら、ローゲを即席の時航艦に仕立て上げたようだ。

ブルクは、さりげなく、操作卓を裏返してみた。そこには、ナイフで刻み込んだと思われる図形があった。それは、カール・ゲルハルト・クラウスニッツがハックの際に好んで使った、秘密の署名だった。


つづく

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