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「親父さんに、何て報告するかな」

主観時間でも客観時間でも何時のことになるか分からないが、クラウスニッツの親代わりだったシャーテンホルストにだけは何とかして報告しようと、ブルクは思っていた。

戦艦ローゲを発見したあと、クラウスニッツのハックを参考にして、時空ビーコンを即席で作った。クラウスニッツほどではないにしても、ブルクもまた、ハッカーなのだ。ビーコンをローゲの外壁に取り付けて、それを目印に、跳躍実験を繰り返した。

当然、ビーコンを取り付けて以降の未来へ跳躍した方がローゲを再発見しやすいのだが、ブルクは、過去への跳躍を主に行なった。クラウスニッツが生きていたはずの時代に、少しても近づこうとした。その度に、周波数を変えた時空ビーコンを取り付けて、さらに過去へ。

その結果、三十二回目の跳躍で、ローゲを見失った。データの足りない時代・宙域で一年・一光年以内の誤差で自分の時空点を特定するのは難しいし、一光年離れてしまえば、ビーコンの信号を捉えられない限り、再発見は不可能だ。

それでもブルクは諦めていなかった。長期任務に備えて、単独でエネルギーを補給するシステムも、劣化した部品を作り直す装置も、それらを整備する人員も全て揃えている。腰を据えて対処すれば、このスタッフ達に乗り越えられない事態などない。ブルクは、そう信じていた。

実験時航艦エルムラントIIの前には、無限の宇宙と無限の時間が広がっていた。


おわり