「私に何かあったら、この中から選んで連絡を取ってみてください。ひょっとし たら、旦那の力になってくれるかもしれません。ただし、長期間面倒見てくれる とは思わないことです」
鼠が生前、そう言って渡してくれた連絡先の一覧がある。そのうちの一つがオー ディン共和戦線。彼等が依頼した仕事を引き受けたことも何度かある。彼等の情 報はいつも正確で的確なものだった。それにやはり、過激な憲兵に関する情報で あればここが良いだろう。そう思って、俺は彼等と接触した。
俺は情報を得て、反撃に転じた。しかし、なかなかチャンスが掴めなかった。俺 は小隊長の行動パターンをよく知っているし、小隊長は俺の行動パターンを知り 尽している。一ヶ月も経たないうちに俺達は千日手に陥った。
それを打破する手段を提供してくれたのはオーディン共和戦線だった。俺と小隊 長の行動パターンを一ヶ月の間観察した彼等は、俺と似た行動パターンを持つダ ミーを作り、俺自身は一ヶ所に留めた。互いに追いかけ合うから千日手になるの であって、一方が止まって迎え撃てば結着はつく、そう説明された。ダミーの使 用は待ちぶせ場所への確実な誘導と、そのときにこちらが優位に立つための小手 先の技術であるとも。
理屈では分かっていても、一ヶ所に留まるのは恐かった。一週間が過ぎ、二週間 が過ぎた。一ヶ月近く過ぎた頃、ようやくチャンスが巡ってきた。ダミーを狙撃 するのに絶好の機会があり、その狙撃地点が予想できる、理想的なチャンスだ。
小隊長がダミーの狙撃準備に入ったころ、俺は小隊長を狙撃する準備をする。小 隊長の狙撃から一呼吸遅れて俺も引き金を引いた。俺の銃が発射した弾は、小隊 長の胸を撃ち抜いた。狙撃の成功を確認するために小隊長のところへかけつけた 時、彼はまだ生きていた。
「よう、遅かったじゃねえか」
「中尉、……」
「おめでとう。お前は卒業だ。俺を越えやがった」
「……」
「じゃあな」
彼は銃口を咥え、引き金を引いた。俺は言葉も無く敬礼した。こうして、二ヶ月 にわたる攻防の末、俺はかつての上官を葬り去った。
俺はオーディン共和戦線にそのまま残るのは避けた。俺はダミーを見殺しにした。 それに、憲兵隊にいた頃に俺が狙撃した標的の一人が、どうやら彼等の一員だっ たらしい。リーダーは沈着冷静な性格なので心配ないのだが、部下が暴走しない とも限らない。
俺は、秘かに傭兵を集めているベーネミュンデ侯爵夫人の所に身を寄せることに した。少なくとも、金髪の儒子の反対側の陣営にいることは、その逆よりも気分 が良い。しかも、侯爵夫人は金髪の儒子やその姉を目の敵にしているそうだ。奴 等を狙撃するチャンスがあったら面白い。
どうせ、他に宛が無いのだから、そのぐらい夢見ても良いだろう。何か目標でも 持ってないとやりきれないぜ。