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かねてからフェルナー大佐に進言していた「金髪の儒子暗殺計画」の許可が降り た。俺は「とにかく暗殺しよう」としか言ってなかったのだが、大佐は大佐なり に理論武装したようだ。この計画の発動は、実はブラウンシュヴァイク公の許可 をとってないのではないかという噂も流れたが、俺にはそんなことはどうでもよ かったので気にはしなかった。

フェルナー大佐の指揮の下、暗殺部隊三百名は作戦を開始した。第一目標、ロー エングラム侯暗殺、第二目標、グリューネワルト伯爵夫人捕獲、第三目標、キル ヒアイス捕獲というのが表向きの目標だったが、俺に与えられた指示は違ってい た。

「この三人のうち誰でもいいから、機会があれば狙撃しろ。一人欠ければ敵の動 きは相当にぶくなる」

俺は単身で先発し、狙撃可能な地点へと身を潜めた。しかし、……。

目標地点は敵であふれ返っていた。何千人いるか分からないが、味方より遥かに 多いのは確かだ。この襲撃は失敗だという見切りはつけたものの、既に敵地深く 侵入している俺は脱出することもうかつに無線を使うこともできない。身を潜め て待っていても、危機感は増大する一方で一向に収まる気配がない。

そのとき、視界の片隅に赤いものがよぎった。奴だ。赤毛の腰巾着だ。

「何だ、そんな所にいたのか」

俺は笑みを浮べながらそうつぶやき、銃を構えた。他のことは何も目に入らなく なっていた。

「誰かいるぞ!」

敵の兵士の声に、奴はこちらを振り向いた。俺が照準を合わせるのと奴が銃を構 えるのが同時だった。

諸君は覚えているだろうか? 同時に構えたら俺より奴の方が早く撃てることを。 俺はその瞬間までその事実を忘れていた。

俺は死んだ。


おわり