まず、相談相手を見つけること。父方の従兄弟にオイゲン・リヒターという人物 がいる。私は休日を利用して彼に相談してみた。ただし、ワイツェッカーの存在 は伏せておいた。
オイゲンが言うことには、帝国の民主化には三つの道がある。上からの改革と下 からの革命と外からの征服である。しかし、この三つ目の選択にはかなりの不安 要素がある。帝国が外敵に征服されるとすれば自由惑星同盟以外にありえないの だが、今の同盟には理念も実力もない。これは、一世紀半ほど前の同盟の急速な 勢力拡大のかなりの部分が帝国からの理念なき逃亡者から成り立っていることを 考えると仕方がないのかもしれないが。
下からの革命についてはどうだろう? これについても彼は懐疑的だ。ゴールデン バウム王朝が疲弊していることは確かだが、民衆もまた疲弊している。よほどの 出来事がないと、民衆主導の革命は起きないだろう。あるいは下級貴族なり軍の 一部なりがクーデターを起こす可能性はあるが、それが直に民主化につながると は想像しがたい。
では、残りは上からの改革ということになる。これも容易ではないがやってみる 価値がある。少なくともオイゲンはそう信じている。その彼が秘かに期待してい ることがある。強力な外圧への反発としての民主改革である。強力な外圧の下で は民主政体が専制君主政体よりも純軍事的に有利になる場合がある。国家の利害 と国民の利害を一致させることができれば徴兵が楽になり、士気も高くなるのだ。
実はこれは歴史上に例のあることである。大昔の地球上でフランスという国家の ナポレオンという将軍が近隣諸国を軍事的に脅かしていた頃のことである。フラ ンスの隣国の一つプロイセンは「上からの革命」と呼ばれる民主改革を行なった のだが、それはシャルンホルストを始めとする軍人の要請に基くものであった。
これが帝国を立憲君主制に移行させるためのオイゲンの切札であるが、そのため に同盟に強くなって欲しいということは決して口外できないものであった。