14)

リップシュタット戦役は終わり、ローエングラムが勝利した。その直後、ローエ ングラムはクーデターを起こし、帝国宰相になった。従兄弟のオイゲンは新政府 に登用され、社会改革に乗り出した。古い時代は終わったのだ。

イゼルローンからの報告が届いた。我々の情報はバグダッシュ中佐を通してヤン 提督に伝えられることになったという。おそらく、現時点で考えられる最高の受 け手だろう。

我々の将来の情報提供へのささやかな見返りのひとつとして、一つの情報がその 報告に含まれていた。私の父の消息である。三十年前に亡命を企てた父はフェザー ンで金銭上のトラブルに巻き込まれ、同盟の地を踏むことなく命を落としたそう だ。それが不運だったのか幸運だったのか分からないが、なんとも数奇な人生を 歩んだものだ。

過去のことはともかく今は全てが順調に進んでいるように見えるのだが、気掛り な点が一つある。オーベルシュタインの思惑である。ワイツェッカーに知られた ことは当然オーベルシュタインに筒抜けであると見ておいた方がよい。政権が安 定しつつある今、ローエングラムの懐刀である彼が共和主義グループを放置して おくだろうか? それ以前に自分の制御下にない秘密組織の存在を彼が許すだろう か?

そろそろ私とヘレナの亡命を考えた方がよさそうだ。この二人が消えればオーベ ルシュタインの持ってる手掛りは途絶えるはずだ。旧クラインマン機関は元々独 立した組織だし、S2機関はゾントハイマー准将に任せておけば間違いない。もし イゼルローンまで辿りつけたら、その先はヤン提督に身柄を預ければよい。

残った問題は二つ。オーベルシュタインが我々のオーディン脱出を見逃がすだろ うか? ヘレナは私のプロポーズを受けてくれるだろうか?

どちらも難問である。


おわり