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「伝達型文章の作文技術」:01-01

01: 序論

01-01: 事実や主張を伝えるための文章


人と人との精神的交通を計る唯一の手段は言葉である. そしてこの交通を全か らしむるには, 全ての人に共通した正確な観念を間違いなく呼起させる様に, 言葉を用ひるの必要がある. 然し言葉を乱雑に用ひ, 且つその言葉で勝手な事 柄を理解させやうとするなら, 寧ろ話はしないで手真似でするがよい.
トルストイ「人生論」

本稿では, 「伝達型文章の作文技術」を解説する. 思いつきで書いている部分 が多いので, 厳密な話だと思ってはいけない. しかし, 自分の作文技術を作る 際の参考にできるだろう. 木下是雄の「理科系の作文技術」[1]を主な指針と するだろう. 同書の抜粋[2]も参考にするとよい. ウェブ上には, ほかにも, 参考にできるページが多数ある.[3]

我々は, さまざまな文章を書く. それらの文章の目的は, 二種類に大別できる. 一つは, 何らかの感情を読者に引き起こすための文章である. もう一つは, 事 実や主張を伝えるための文章である. 詩や小説は前者に属し, レポート, 論文, 報告書は後者に属す. メールやネットニュースで議論する場合も後者である. ここでは, このような事実/主張を伝えることを目的とする文章を, 「伝達型 文章」と呼ぶことにしよう.

伝達型文章は, 「理科系の作文技術」[1]での「仕事の文書」に相当する. ち なみに, 同書では, 自分だけが読む文章が取り扱う範囲から除外されている. しかし, プログラミングの世界では, 「三ヶ月後の自分は他人」という格言が ある. このことを考慮すると, 本稿で紹介する技術を用いた方が無難である.

何かを他人に(あるいは三ヶ月後の自分に)明確に伝えることは, 実は難しい. もちろん, 言葉足らずのいいかげんな説明でも伝わることもある. しかし, そ れは普通, 限られた人々にその場限りの伝達する場合に限られる. しかも, 多 くの場合は, 伝わった気になっているだけで, 実は伝わっていない. 不特定多 数の人に確実に伝えることは, 絶望的に難しい. 読む人の範囲を適切に限定し なければ, 伝わる保証はないと思ってよい.

このことが分かっていない人にとっては, 本稿は全くの無駄である. そういう 人は伝達型の文章を書くのに向いていない. 文章を書くなら自己表現や情緒表 現に限定する方が幸せである. 書く方にとっても, 読む方にとっても.

難しいと分かっていても伝える文を書かなければならない人にとっては, 本稿 が役に立つだろう. ここでは, そういった人達のための標準的な技術を解説す る. 技術というからには, 大抵の人は, その気になれば, それなりに習得でき る. 100点を取るのは難しいが, 60点なら普通に取れる. ちょっと頑張って, 80点も取れば, 充分である.

日本語の場合を主に述べるが, 英文等にも流用できる部分も多いだろう.


  1. 木下是雄: 「理科系の作文技術」, 中公新書624 (1981年).
  2. 薄井信治: 「理科系の作文技術」抜粋, http://www.ube-k.ac.jp/~usui/rikakei.html (最終更新: 2002年5月; 最終アクセス: 2008年12月).
  3. 小坂圭二: 「作文技術」リンク集, http://film.rlss.okayama-u.ac.jp/~kgk/link/writing.html (最終更新: 2009年3月; 最終アクセス: 2009年3月).

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