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「伝達型文章の作文技術」:01-02

01: 序論

01-02: 全般的注意


彼と同様に感じる人を説得する必要はない. 問題は不審に思う人, 疑念を抱く 人であり, 彼に方法が必要となるのは, そういう人たちに対してなのだ.
フリチョフ・ハフト「レトリック流交渉術」

洞察力と表現力は相互関係にある. 鋭く深い洞察を的確に表現する才能は, 次 に来ることのより鋭く深い洞察につながる. 頭の中にあるよりも文章になった 場合のインパクトは, 他の誰よりもそれを書いた当人に対して強く影響するか らである.
塩野七生「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以降」

具体的な技術を述べる前に, 全般的な注意をしておこう.

まず, 伝達型文章を書く場合は, 伝える相手のことを常に意識しなければなら ない. どの程度の予備知識を持っているか. どの程度の理解力があるか. どの くらい理解する気があるか.

そして, その対象に確実に伝えるために努力する必要がある. 他の人には分か らなくてもよい. 伝えられるべき人達がちゃんと理解できるように, 書くので ある.

「この程度なら分かるだろう」というレベルで書くと, 伝わらないことが多い. 暗黙の了解だと自分では思っていることが, 暗黙のすれ違いを生むのである. いやでも分からせるつもりで書くのがよい.

よい文章を書くには, よい内容とよい表現が必要である. 事実/主張を伝える ための文章を書く場合は, 論理的説得力が強い内容を, 分かりやすく, 誤解の 無いように表現することを目標とする. 文学的な美しさなどは, 二の次である.

論理的説得力が強い内容を作るためには, クリティカル・シンキング(批判的 思考)の技術を使うとよい.

「論理的に考える方法」[1]では, 紅茶好きの人に珈琲を勧めるつもりで書く のがよいとしている. 相手がいつも自分と同じように理解しているとは限らな いし, 自分の主張に賛成するとは限らないのである. 理解し, 納得するのを助 けるための根拠は, 明示的に表現すべきである.

強い説得力を持って表現する技術は, レトリックと呼ばれる. レトリックには, 情意に訴える技術も含まれるが, ここでは, 論理に訴える技術に注目すればよ い.

このように書くと, 「よい内容を考えたあとで, よい表現を決める」という順 番で考えたくなる. しかし, よい内容とよい表現は, 相互作用的である. 自分 の主張を明確にするための最もよい方法は, その主張を明確に表現することで ある. その過程で, 主張の曖昧さ, 不充分さが判明し, 場合によっては, 主張 が無根拠であることに気がつくだろう.

よって, 次回から, 「よい表現とは何か」ということに注目する. 表現の仕方 が分かれば, 主張の明確化に役立つだろう.


  1. 小野田博一: 「論理的に考える方法」, 光文社知恵の森文庫 (2007年).

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