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「伝達型文章の作文技術」:03-02

03: 読み方

03-02: 事実と意見


「あることを確信することと, それを立証することとは全然別なんだ」
J. P. ホーガン「巨人たちの星」

情報提供の段階と評価の段階を分離することも, 交渉に必要な構造の一つに数 えられる.
フリチョフ・ハフト「レトリック流交渉術」

・読み分け方

木下は, 「理科系の作文技術」[1]で, 事実と意見とを区別せよと主張する. 同書では,

ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であった.
ジョージ・ワシントンは米国の初代の大統領であった.

という二つの文の, どちらが事実の記述でどちらが意見であるか, という問題 が紹介されている. 続いて, 「事実とは, 証拠をあげて裏付けすることのでき るものである」, 「意見というのは, 何事かについてある人が下す判断である」 という主張が紹介されている.

この二つは, かならずしも厳密な区別が出来ないが, 可能な限り読みわける努 力をするとよい. どこまでが事実で, どこからが意見か. 曖昧な部分は, 何故 曖昧なのか. そういったことを, よく考えながら読むと, その文章が伝えたい ことが分かるだろう.

事実と意見の区別に対する考察が, 内田浩[2]によってなされている.

自然科学では, 事実と, その事実から客観的に導き出される推論と, それらに 対する意見との3段階に分けて考えられる. 第2段階も事実の一部としてもよい が, 前提となる事実と, そこからの推論は, 区別して考える方が分かりやすい.

似たような問題に, 議論における現状説明と現状肯定との混同がある. 例えば, 「現状はこうである」という説明に対して, 「そんなこと言うから駄目なんだ!!」 と怒鳴る人がいる. 現状説明には, 普通, それを肯定するかどうかは含まれな い. 現状に対する判断や改善案は, 現状説明の後に来る.

現状説明と現状肯定を混同してしまう原因は, 前回述べた, 行間を読むことの 弊害である. 淡々と説明する人に対して, 「こう思ってるに違いない」と思い 込んでしまうと, その人の本当の主張は見えなくなる.

・書き分け方

書くときには, 事実と意見を書き分けるべきである.

書き分ける方法の第1段階は, 自分がこれから書く内容が, 事実なのか意見な のかを把握しておくことである. これは, 読み分けの練習をした人には, 比較 的容易である.

第2段階は, 意見の要素を事実の記述に入れないことである. 特に, 主観に依 存する修飾語を入れてはならない. 情緒的な表現は, 事実の客観性を薄めてし まうのである.


  1. 木下是雄: 「理科系の作文技術」, 中公新書624 (1981年).
  2. 内田浩: 修士論文「論理的文章における書き手の意図の表現」, http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~kokugo/nonami/uchida/uchida.html, (作成: 平成12年度; 最終アクセス: 2009年2月).

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