やがてパウルは士官学校を受験し、実技はともかく学科は優秀な成績で合格した。 シュザンナのことはときどき思い出したが、会うことも連絡をとることもなかっ た。士官学校では、まず優等生と言われてもおかしく無い程度の成績は残せた。 特に情報分析、情報工作、組織運営等の分野では目を見張るものがあった。生活 の方はというと、まあ平穏無事と言えるものだった。少なくとも入学してしばら くの間は。
「パウル・フォン・オーベルシュタインとは君のことですか?」
ある日、そう呼び止められた。振り返ると、そこにいたのは、あの日シュザンナ と一緒にいた少年だった。パウルは言葉が出ない程驚いたが、それは表情には出 なかった。
「あ、失礼。僕はカール・フォン・ワイツェッカー。ちょっと聞きたいことがあ るんだけど、いいかな?」
そいつの話を聞いてみると、要はそいつの唯一の得意分野でパウルが一番をとっ てるのが目障りらしい。いろいろ理屈をこねてるが、結局はそういうことなのだ。
実は、カールは幼年学校を出ていない。なのに何故士官学校に入学出来たかとい うと、ベーネミュンデ子爵の力である。貴族社会では往々にして起こることだ。 しかし、いくら大貴族のコネがあっても、成績が基準を満たさなければ進級出来 ない。四苦八苦してなんとか及第点をとってきたカールの唯一の取り柄の前に立 ちはだかったのがパウルという訳だ。
あれこれ議論をふっかけてくるのを適当にあしらっていると、カールはパウルの 言葉にいちいち感銘を受けていた。そうこうしているうちに、パウルはカールに すっかりなつかれてしまい、毎日のように議論をふっかけられるようになってし まった。