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最初のうちはカールのことをうっとうしく思っていたパウルだが、カールが意外 に頭が良いことに気がつくと、自分からも議論のネタを提供するようになった。 カールが劣等生なのは知識が足りないからであって、頭の出来は悪くはなかった のだ。カールはパウルの知識を水が砂にしみこむように吸収していった。

「君との議論は、一年分の講義より為になるよ」

しばしばカールはそう言った。これはカールが講義をろくに聞いてないだけのこ となのだが、確かに彼にとってみれば、講義よりパウルとの議論の方がはるかに 身になっていた。

パウルがカールとの会話を好むようになったのはもう一つの理由がある。カール の話の中にシュザンナが頻繁に登場するのだ。カールの口からシュザンナの話題 が出ると、何やら腹立たしいような、それでいてもっと聞きたいような、妙な感 情をパウルはいつも抱いてしまう。

カールはそんなことに全然気付いていない。基本的には脳天気で鈍感で人の好い 奴なのだ。もっとも、いつも無表情なパウルの感情に気付けというのは酷という ものだが。

脳天気と言えば、カールはどうやらシュザンナが自分のことを憎からず思ってる と信じているようだ。カールがシュザンナに恋をしてるのは言うまでもなく分か るのだが、その逆となると……。

パウルがあの日見たところによると、さすがに憎くはないだろうが恋でもない、 ペットに対する愛情と大差はない。今頃は犬にでもカールだかリッターだかの名 前をつけて可愛がっている気さえする。もっとも、これはパウルの願望なのかも 知れなかったのだが。

どちらにしろ、そんなことを口に出して友人の機嫌を損ねる程パウルは馬鹿では なかった。


つづく