6)

ある日、カールが何時になく真剣な表情で話しかけてきた。シュザンナが皇帝の 後宮に入るというのだ。パウルは眩暈がする程の衝撃を受けたが、もちろん表情 には出さなかった。シュザンナ救出に知恵を貸して欲しいというカールに、パウ ルはやっとのことで返事をした。

「君は君の道を行くがいい。私は私の道を行く。当分、会わぬのがよいだろう」

カールがその言葉をどう受けとめたか心配だった。しかし、頭の良い彼のことだ、 すぐに理解するだろう、そう自分を納得させてカールと別れた。

この事件が自分の計画にどんな変化を持たらすか、パウルは子細に検討してみた。 結局、ゴールデンバウム王朝を打倒する理由が一つ増えただけだ、そう結論づけ て、計画の変更はしなかった。

それっきり、パウルはカールのこともシュザンナのことも念頭から追いはらった。 少なくとも、追いはらったつもりではあった。

その後、カールは姿を消した。パウルは士官学校を無事卒業し、軍人としての道 を順調に歩み始めた。様々な思いを無表情の奥に押し込めたまま。


つづく