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いつの頃からか、「猫」を目の仇にする人達が現われるようになったの。「猫」 の実態が分かってるとは思えないのにどうやってか「猫」の女を探し出し、危害 を加えていく人達が。そういう人達は憲兵や治安警察のように体制側につくこと が多かったから「犬」と呼ばれるようになったの。

不思議なことに「犬」同士が連帯を図った例はないし、そもそも一世代に一人ぐ らいしか現われなかったけど、それでも多くの「猫」が殺されてしまった。

「犬」の正体は長いこと分からなかったけど、「家猫」が歪んだ形で発現したん じゃないかという仮説が今では定説だわ。

「猫」の血統の一部はときどき一般社会の中に戻されるの。その方が「猫」の中 だけで血統を独占するよりはるかに効率いいから。その戻された「猫」の子孫が 「家猫」。

「家猫」は普通が才能が封じられてるんだけど、いつも「猫」の制御下にあるわ けじゃないから事故が起こりやすいの。才能が素直に開花したのを「野良猫」と 呼ぶんだけど、それは別にかまわない。でも、歪んだ形で開花したあげく、本人 の意志とは関係なく「猫」に対する近親憎悪を育ててしまうと、「猫」には困っ た事態ね。どうやらそれが「犬」らしいの。

それ以上詳しいことを調べるわけにはいかなかった。調査しようにも「犬」に近 づいた「猫」はことごとく殺されてしまうから。「犬」が現われると私達「猫」 は逃げるしかなかったわ。

私達はね、「犬」が嫌いなわけではないの。何といっても親戚だし。ただ、ちょっ と、いえ、ちょっとどころじゃないけど、困るだけ。


つづく