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第二艦橋に到着したクラウスニッツをマートブーホが出向かえた。
「クラウスニッツ技術中佐。先程の事故で第一艦橋が切り離されました。技術士 官にお頼みするのは誠に心苦しいのですが、工作艦部隊の指揮を取って頂けませ んか?」
「つまり、残った士官の最上位が中尉で、部隊長も副部隊長も第一艦橋で孤立し ているということですね?」
「は、はい。そういうことであります」
予想通りである。グリュンベルグ部隊長は事故の可能性など全然考慮してなかっ たのだ。あれ程、口をすっぱくして注意を喚起しておいたのに。クラウスニッツ は糞便学的な言葉を十数秒間ほとばしらせた後、見事に意識を切り替えた。

「分かった、引き受けよう。状況説明!」
「はい。指向性ゼッフル粒子放出装置初号機の爆発に伴なう被害は、工作艦初号 部隊一二隻中一隻大破、四隻中破、二隻小破です。弐号機、参号機は異常無し。 弐号部隊、参号部隊は予定通り弐号機、参号機に張り付いて艦隊の通り道を空け ると同時に、旗艦に確認を求めております。キルヒアイス艦隊本体は既に動き出 しております」
「初号部隊は必要と思われる回避運動以外はできるだけ動くな。制御不能な艦の 位置と速度をファゾルトに報告させろ。初号機の破片もだ。重くて速いのが優先 だ。これをプロトコルCでバルバロッサに送る。オペレーター、何分でできる?」
「十分もあれば」
「遅い。五分でなんとかしろ。誤差が出たらエラーバー付きで送ってやれ。その 後、さらに五分使って精度を上げたやつを送りなおせ。できるな」
「了解。何とかします」
「弐号部隊、参号部隊は追って指示があるまで張り付いたままでいるように。そ れから……」
一瞬考えたクラウスニッツは、再び口を開いた。
「それから、バルバロッサにいるシャーテンホルスト技術大佐を呼び出せ」

シャーテンホルストはこの任務でのクラウスニッツの直接の上司にあたる技術顧 問団の団長である。キルヒアイス艦隊旗艦バルバロッサで技術面での相談役をやっ ている。彼は士官学校時代のクラウスニッツらの教官を勤めたこともあり、その 後の研究活動もクラウスニッツとの共同研究が多いため、上司と部下というより、 師弟関係と言った方がしっくりくる。あるいは親子関係に近いといってもよいか もしれない。
「バルバロッサとつながりました。メイン・スクリーンに写します」
五十がらみの痩せ気味で長身の男がメイン・スクリーンに表われた。厳格で意志 の強いことが外見にも表われている。能力と年齢の割に階級が低いのは、シャフ ト技術大将に近づくのを嫌ったためだという噂もある。
「先生。ファゾルトのクラウスニッツです。初号機が爆発しました。おそらく、 残留ゼッフル粒子による誘爆です」
「こちらでも爆発を確認した。どんな状況だ?」
「ファゾルトの『空飛ぶ集団墓場』が外れたので、私が臨時で指揮を取っていま す。弐号部隊、参号部隊は予定通り、初号部隊はその場で待機。制御不能な艦と 初号機の主な破片の運動要素を五分以内にプロトコルCで送ります。さらに五分 後に精度を上げてもう一度送ります。あとはそっちでよけてください」
「分かった。キルヒアイス艦隊司令官に伝えておく」
「それでは、お気をつけて」
「旗艦が危なくなるほど余裕のない戦闘でもなかろう。そっちこそ、気をつけな さい」
「了解。通信終わり」
軽く敬礼をして、クラウスニッツは通信を終わらせた。

「さて、問題はこのあとだな」
新米の部隊長代理は、指揮官席に座って腕を組み、目を閉じて、考え込む姿勢の ままうたた寝を始めた。


つづく