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「部隊長代理どの。バルバロッサより通信です」
その声でクラウスニッツは目覚めた。
「ん、スクリーンに出してくれ」
寝惚けまなこのクラウスニッツの前のスクリーンに現われたのは、赤毛の青年だっ た。どこかで見た覚えがある。襟元の階級章は……中将?
「急なお役目、御苦労さまです。部隊長との連絡はとれたのでしょうか?」
「あ、ええと…」
クラウスニッツが困っていると、マートブーホが横から助け船を出してくれた。
「先程接舷した救命艇からの報告によると、部隊長どのは命に別状はないものの 頭部を負傷されて意識不明。副部隊長どのは顎部を負傷されて指揮を取れる状態 にはないとのことです」
「そうですか。それでは御苦労ですが引き続き技術中佐に部隊長代理をお願いし ます。予定では指向性ゼッフル粒子放出装置を解体しつつ艦隊についてきていた だくことになってましたが、この様子ではそうもいかないので、ここで待機して ください。病院船と、念のために護衛艦隊を残していきますから、本隊と合流す るまでの指揮はよろしくお願いします」
「は、はい。了解しました」
「では、お気をつけて」
「ご武運を」

若き艦隊司令官がスクリーンから消えたあとも、クラウスニッツはスクリーンを 呆然と眺めていた。やがて、呆然としたままマートブーホに話しかけた。
「キルヒアイス提督って中将だよな」
「はい、そうです」
「なんで、あんなに若いんだ?」
「本当にお若いですねえ。なんでと仰られても…、ほら、キルヒアイス提督は宇 宙艦隊副司令長官閣下の片腕と言われている方ですから」
「ローエングラム伯か。あっちは同い歳で元帥閣下だったな。片腕をこんなとこ に置いといて不便じゃないのかなあ」
「え、ええと」
「まあ、それは置いといてだ、さっきの口ぶりからすると、護衛艦隊も含めて私 に指揮を取れと言ってるようにも聞こえるな」
「はあ、そのように受け取りましたが」
「何故だ?」
「は?」
「護衛艦隊の指揮をとってるのは軍人だろう? なんでそっちに任さない?」
「部隊長代理どのも軍人には違いないではないですか。それに、少なくとも私に とっては、見たこともない護衛艦隊司令よりは部隊長代理どのの方が信頼できま す」
「はいはい。受け賜わっておきましょう」

「かけあい漫才の途中、申し訳ありませんが」
そこでオペレーターが割り込んできた。
「その護衛艦隊司令から通信です」
クラウスニッツは軽く肩をすくめた。
「メイン・スクリーンへ」
そこに写し出されたのは、スクリーン一杯に広がった鬼のような顔だった。その 面相の凶悪さはオフレッサー上級大将に匹敵した。ひるむクラウスニッツらを目 掛けてその口から発せられたのは声というよりは怒号だった。
「護衛艦隊司令ティーデマン中佐であります。キルヒアイス提督の指示によりク ラウスニッツ技術中佐の指揮下に入ります。ただし、小官は戦闘のプロですので、 万一戦闘状態に入ったときは小官にお任せいただいて、学者さんはすっこんでて ください」
「はいはい。受け賜わっておきましょう。で、どんな編成ですか?」
「巡航艦三、駆逐艦一二、病院船二です」
「あっそう。じゃあ病院船を寄越してくれたら、その辺で寝てていいからね。で も呼んだらすぐ来てね」
「了解しました! 小官はこれより昼寝します!!」
ひときわ高く吠えたあと、ティーデマンは一方的に通信を切った。

「なに怒ってんだ、あれは」
「そりゃあ、怒りますよ、普通」
「そうか、普通怒るか。ところで、今のビデオに撮ってある?」
「いえ、必要ないと思いましたから。撮った方がよかったですか?」
「いや、敵が来たときにあれを敵に見せたら逃げてくれないかなあと思って。仕 方がない、生でやってもらおう」
「……」
「ところで、さっき置いといた話覚えてる?」
「え、なんでしたっけ?」
「いや、いいんだ。それよりも、このあとどうするかだな」
クラウスニッツは、今度は眠らずに考えた。


つづく