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「敵が来たとしてだ、少数だったら護衛艦隊に任せとけば大丈夫、大艦隊なら考 えるまでもなく降伏するしかない。逃げようにも故障艦や病院船はどうしようも ないからね」
一分ほど考えて、クラウスニッツはマートブーホに話しかけた。
「だから、考えとかなきゃいけないのは、こちらと同程度の艦隊が来たときにど う対処するかってことだな」
「同感です」
「工作艦は武装してたっけ?」
「レールキャノンが一門だけです」
「使えるのか?」
「威力は通常の駆逐艦と同じですが、一回打つと再充填に二時間かかります」
「蜜蜂の一刺か。まあ、使い方は考えておくにしてだ、この規模の艦隊が来ると したら、どういう目的でどこから来ると思う?」
「…やはり偵察でしょう。逃亡艦ならまず単艦だし、攻撃が目的ならこの規模は 中途半端です。脱出路を確保するための偵察という可能性が一番高いでしょう」
「そうだな。作戦通りだと敵は友軍に囲まれてるはずだ。立て直すにしても逃げ 帰るにしても、一旦脱出しないと話にならんだろうからな。それにしても、うー ん、やっぱり脱出路の偵察か。困ったな」
「なんでしょう?」
「こっちが対処を間違えると、敵さんがここを脱出路に使うってことだ。敗走中 とはいえ、万の単位で来るぞ」
「そ、それは、あまり想像したくないですね」
「まあ、そうはならんように頑張ろうや。脱出路として使うとしたら、やはりさっ きあけた穴だな。三万からの艦隊が通れることは実証済みだ」
「回りこむぐらいだったら、ここは通りませんね」
「で、だ。要はこの通路が使えないと敵さんに思わせればいい訳だ。こっちの身 を守るのと一石二鳥を狙う」
「しかし、いくら工作艦部隊といっても、機雷を撒き直すには足りませんよ」
「だから、見えない機雷を使うのさ」
そう言って、クラウスニッツはにやりと笑った。

それからクラウスニッツは矢継ぎ早に指示を出した: 待機させていた弐号部隊、 参号部隊に放出装置の向きを変えさせ、通路の中央、戦艦の有効射程ぎりぎりの 位置で交差するように指向性ゼッフル粒子を放出させること。ただし、放出速度 は五分の一に抑え、三〇分間放出して一〇分間停止のサイクルを指示があるまで 続けること。放出装置の動作記録はファゾルトのコンピュータに転送しておくこ と。これらはできるだけ自動化させ、放出装置に当面不要な人員は全て工作艦に 退去させること。それが済んだら弐号機、参号機の近くにはそれぞれ一隻ずつ工 作艦を残し、あとは全て初号部隊に合流すること。その間、初号部隊の無事な艦 は故障した艦の修理を行なうこと。一時間で修理できるものだけで充分であるが、 艦の方向転換とレールキャノンの修理を優先し、できれば航行可能にすること。

「工兵隊はブルク技術大尉に指揮を取らせよう。確かこの艦に乗ってたはずだし、 第一艦橋には寄りつかなかったから、その辺にいるだろう。そういえば、第一艦 橋をまた付けられるかなあ」
「問い合わせてみます。ご指示はそれだけですか?」
「戦闘要員は交代で休ませろ。工兵隊はどうせ戦闘には参加せんのだから今休む 必要はない。それから……」
「なんでしょう?」
「三〇分ほど寝てくる。その間になにかあったら対処しといてくれ」
「そ、そんな。対処って何をすればいいんです?」
「そこは、臨機応変にだなあ。大丈夫、私にできることは君にもできる」
はなはだ根拠不明な言葉を残して、クラウスニッツはあくびをしながら第二艦橋 を出ていった。


つづく