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「どうも、タンク・ベッドは寝た気がせんなあ。疲れはとれるんだが、うたた寝 の心地良さには負ける」
休息をとり終えたクラウスニッツはぼやいた。艦内電話にあった伝言によると、 第一艦橋の再接続が終わったそうだ。
「早いな。部下が優秀だと上司が楽できる。寝てる間に仕事が済んでるなんて理 想的だな。さて、もう一人の部下はどうしてるか」
クラウスニッツは第一艦橋に向かった。

「なんだ、いやに人数が多いな」
第一艦橋に到着したクラウスニッツがそうつぶやくと、マートブーホが主人を見 つけた子犬のようにうれしそうにかけよってきた。
「もともと第一艦橋にいた人達が半数ほど復帰してくれました。おかげで随分楽 でした」
「そうか。なら、貴官は休憩はいらないな」
「えーっ?」
「冗談だ、休んでこい」
「はーい」
艦橋を出ていくマートブーホを見ながら、短時間で随分なついたものだと思って るところへ、壮年の士官が話しかけてきた。
「チャンマー大尉であります。マートブーホ中尉の休憩中は、小官が代わりに副 官を勤めさせていただきます」
「休息はとらなくていいのか?」
「はい。事故の後、上官達が負傷されてからは、どうせできることがありません でしたから、救助されるまでタンク・ベッドで寝てました。外部との連絡は早く に取れたのですが、なまじ頑丈なものですから脱出口を作るのに時間がかかりま したので」
「賢明だな。今の話だと、部隊長と副部隊長は事故で負傷したのではなくて、事 故の後に負傷したように聞こえたが?」
「はい、その通りです。実は事故の後、両士官の間で責任のなすり合いが起こり まして、それが殴り合いの喧嘩にまで発展してしまいました。お二人とも格闘技 の心得がそれなりにあったものですから、部隊長どののアッパーカットと副部隊 長どののストレートが同時に決まり、ダブル・ノックダウンとなった次第です」
「副部隊長のあごが砕かれたのは分かるとして、部隊長は意識不明だったよな」
「それが、転倒されたときに階段で頭をぶつけられまして」
「そりゃあ、痛いな」
「痛いでしょう」
チャンマーは思わず後頭をさすっていた。
「そのシーン、録画した?」
「いえ、なにか必要でしたでしょうか?」
「私は必要ないけどね。上官の弱味を握っておくと、なにかと面白いんじゃない?」
「はあ。小官は不調法でして」
とんちんかんな返事をした壮年の大尉は、なぜか恥ずかしそうだった。

「それはそうと、状況はどうなってる?」
「工作艦の集結は完了しました。死傷者の収容も完了。全て病院船に移しました。 方向制御できない艦は一隻、方向制御可能でレールキャノンが使えない艦は二隻、 どちらもできるが通常航行はできない艦は本艦を含めて二隻となっております。 よって集結した工作艦の内、通常戦闘が可能な艦は二九隻、その場攻撃が可能な 艦は二隻となります。今後三〇分間でもう一隻その場攻撃が可能となる予定です」
「そうか。ティーデマンの旦那はどうしてる?」
「この近くで待機しつつ、さかんに索敵しているようです」
「前方の索敵はできるだけ無人でやるように伝えてくれ。あと、前方の索敵で火 の類いは使わんようにな」
「了解しました。それから、放出装置の動作記録の転送は終了しました。放出装 置は完全に自動化して全員退避してますが、外部からの指示で最新の動作記録を 転送できます」
「上出来、上出来」
「ところで、第一艦橋に指揮所を移してよかったのでしょうか? また切離されで もしたら…」
「どうせ動けないんだろう? この回りに花火のたねは無いし。危ないことが起こ るはずがないじゃないか」
「しかし、敵弾が当たりますと…」
「そんときは、もう負けてるよ。どっちにいても同じだ。そんな心配するよりも、 まともに指揮を取れる方がありがたい。ところで、大尉の役職は?」
「艦長を拝命させていただいております」
「じゃあ、艦長の業務に戻ってくれ。マートブーホが戻る頃までは、なにも起こ らんだろう」
「御意」

チャンマーを追いはらったクラウスニッツは指揮官席で居眠りを始めた。


つづく