3)

「というわけだ。できるか、ブルク?」
「は、はい。技術的には全く問題はありません」
驚愕と尊敬の念もあらわにブルクは答えた。
「先回りして言うとね、こいつはまともな作戦じゃない。詭計、いや小細工に属 するものだ」
椅子の上で行儀悪くあぐらをかいたままクラウスニッツは言った。
「だからといって打てる手を打たずにのほほんとしていられる状況じゃないから な。ま、これでだめなら白旗あげるさ。その暇があればだけどね」

「もしこれが失敗したらどうなりますか?」
マートブーホが考え込みながら言った。
「通常戦闘になるだけだ。やらない場合に比べて悪くはならんだろう」
「敵が見破る可能性はどうでしょう?」
「まあ、ローエングラム元帥が似たようなことをもっとシビアな状況でやってる からなあ。あれを知ってたらひっからないかもしれない。知ってるからこそひっ かかる可能性もあるけどね」

「あ、あの」
意を決したようにブルクが切り出した。
「俺は先輩のことを、いや、小官は司令どののことを尊敬しております。いつの 日か小官も司令どののようになりたいと願っております」
「ばか言っちゃいけないよ。せっかく敵も味方も少なくとも直接には殺さずにい られるんだ。私はもう道を踏み外して手遅れだから、せめて君ぐらいはシャーテ ンホルストの親父さんのようになってくれよ」
「し、しかし…」
「私のように最初から軍人を目指した者には身につまされる言葉ですが、司令ど のの仰る通りだと私も思いますよ」
「……、分かりました。私が親父さんの後を継ぎますから、司令どのは安心して 道を踏み外してください」
「この野郎。とっとと行って仕事してこい!!」
大袈裟な敬礼をして去って行くブルクを見送りながら、クラウスニッツは苦笑し ていた。

「では、小官はこれを使う場合と使わない場合に分けて、戦術パターンをいくつ か考えておきます」
「じゃあ頼む。僕はちょっと昼寝してくるから」
「またですか?」
「寝られるうちに寝とかないと…」
「ひょっとして、寝られなくなる事態を予想してらっしゃるんですか?」
「いや、寝られるうちに寝とかないと、寝られなくなったら寝られない。あたり まえのことだけどね」
「あたりまえもなにも、そのまんまじゃないですか」
あきれ顔のマートブーホを残して、クラウスニッツはあくびをしながら艦橋を出 て行った。


つづく