4)

「あ、お目覚めですか?」
あくびをしながら艦橋に出てきたクラウスニッツにマートブーホが声をかけた。
「できたか?」
「通常パターンをAからEまでと、それらに対応した『あれ』を使うパターンを作っ てみました」

マートブーホは嬉々として作戦案の概略を説明したが、無表情なクラウスニッツ を見ておそるおそる尋ねた。
「あ、あの、駄目ですか?」
「うん? ああ、悪くはないよ。悪くはないが…」
「良くもない?」
クラウスニッツは細かい点をいくつか修正したあとに言った。
「あまり変り映えがしないが、まあ、こんなところか。この作戦案を僚艦に送っ といてくれ。例の輸送艦に行ってるブルクにもな」
「御意」
「あとは……、果報は寝て待てだな」
「また寝るんですか?」
「いいから仕事しなさい」

その後の数日は平穏無事な航海が続いた。その間、クラウスニッツとマートブー ホは戦闘シミュレーションを繰り返していた。
「どうやら、敵がひっかかってくれればこっちより五割多くても対処できますね」
「ああ、そうだな」
「どうしたんですか? 浮かない顔をして」
「いや、なんでもない。大したことじゃないんだ。このシミュレーション結果は 正しいと思うよ。敵さんがそれより多かったら降伏を考えることにしとこう」
つくり笑いでごまかしたクラウスニッツは自室にひきあげた。

「部下に不安を悟られるとはヤキがまわったかな?」
自室のベッドでクラウスニッツはつぶやいた。戦うことに対する不安でも負ける ことに対する不安でもなかった。
「敵がこっちの八割を超えていれば、どうあがいても無傷ってわけにはいかんよ なあ」
自分が指揮をとる初めての戦闘で、敵だけでなく味方も死ぬかもしれないことを 考えると、どうにもやりきれない気分のクラウスニッツであった。


つづく