5)

「えーっ? 本当なんですか?」
マートブーホの素頓狂な声が艦橋に響いた。クラウスニッツが答えた。
「研究所の伝統だ。今度やってみるといい。水割りにゼッフル粒子をほんの少し だ。別にウイスキーじゃなくてもいいけど、ビールみたいに炭酸があっちゃいけ ない。その場で爆発する。アルコールが濃すぎると悪酔いしちまう。その辺を注 意しさえすれば、ものすごくパンチの効いた酒のできあがりだ」
「おいしいですか?」
「うまいさ。それに一杯で天国を覗いたように酔える。なあ、ブルク?」
ブルクは横でニヤニヤしてるが口を出さない。飲む仕草をしながらクラウスニッ ツは続ける。
「こう、一口飲むと三秒で胃の中が爆発したように効いてくるんだ。あれはやっ てみた者じゃないと分からん」
「でも大丈夫なんですか?」
「大丈夫! 習慣性も後遺症もない!」
こらえ切れずにブルクが大声で笑い出す。

「かけあい漫才の途中、申し訳ありませんが」
何故かアムリッツァ会戦のときと同じ口調でオペレーターが割り込んできた。
「複数の正体不明艦が接近してきます」
「ブルク。念のためにシャトルで向こうに行っといてくれ」
「了解」
「そいつらは何隻いるんだ?」
「帝国軍巡航艦二隻と帝国軍駆逐艦一二隻。艦名等まではまだ分かりません」
「帝国軍の艦艇だと?」
それは、久し振りに聞く、ゾントハイマー大佐の声だった。
「予定されてた模擬戦闘ではないんですね、大佐?」
「模擬戦闘のことは貴官等には知らされてないはずだが? まあいい。確かに模擬 戦闘が予定されていた。それは叛乱軍の艦艇を偽装した自動航行艦によるものの はずだった。それに一四隻とは多過ぎる」
「その自動航行艦、指令艦ごとやられてますよ、多分」
憮然とした表情で述べられたクラウスニッツの言葉の正しさは後日立証された。

「マートブーホ、第一級戦闘態勢だ。相手の目的がなんであれ、万全の態勢を整 えとこう」
そう言いながら、クラウスニッツは腕組みをし、目を閉じた。


つづく