6)

「正体不明巡航艦より入電しました」
「読み上げろ」
「『一時間以内に降伏せよ。さもなくば攻撃を開始する。ガルムの牙』以上です」
「分かった。『一時間後に返答する』とでも返電しとけ」
「了解」

「大佐、ガルムの牙を御存知なんでしょうか?」
クラウスニッツはゾントハイマーに尋ねた。「ガルムの牙」の名前が出たときに 表情が変化したのを見逃さなかったのだ。
「『帝国の盾』という貴族主義過激派グループの中の最も過激なセクトだ」
「スポンサーは?」
「ブラウンシュヴァイク公だ」
「立証できますか?」
「法廷での立証ということなら、まず無理だろう」
「なら生捕りにしてもしょうがないですね。マートブーホ、十分後に作戦開始だ。 戦術Bでいく」
「待たないんですか?」
「こっちは曲がりなりにも正規軍だ。テロリストの要求を飲めないのは当然だろ う。ブルクにも知らせておけ」
「了解。あれを使うんですね」

「待ちたまえ。作戦開始の合図が敵に悟られたらまずいとは思わんか? 軍用の暗 号は筒抜けだと思った方がよいぞ」
「あっ、そうか。じゃあ、御協力願えませんか、大佐?」
「私にどうしろと?」
「大佐なら各艦の艦橋に『友人』をお持ちでしょうから、テロリストの要求につ いての相談に見せかけて作戦を伝えられるかと思いまして」
「……、貴官も案外、端倪すべからざる人物のようだな。分かった、なんとかし よう」
「お願いします」

「それにしても、フェンリル対ガルムというのも皮肉な取り合わせだな」
打合せを始めたマートブーホとゾントハイマーを眺めながら、クラウスニッツは 小さくつぶやき微苦笑した。


つづく