8)

ガルムの牙艦隊を翻弄し、撃沈された輸送艦は、クラウスニッツの提案によりブ ルクがプログラムを書換えた即席の自動航行艦である。戦闘開始前にブルクがシャ トルで輸送艦隊に行ったのは敵に知られずにプログラムの開始のタイミングを決 定するためであった。この輸送艦はむろんのこと、必要な積荷を他の輸送艦に移 し換え、代わりに小型のレーザー砲や機雷を積み込んでいた。

その輸送艦によって時間を稼いているうちに、クラウスニッツ艦隊の駆逐艦は三 隻一組で所定の位置についていた。フェンリルと三組の駆逐艦群が敵艦隊を中心 とする正四面体の構成する位置である。この包囲陣型をとるために敵の目をそら したのだ。

フェンリルとほぼ同時に敵を射程に捉えた駆逐艦群は三隻同時に一隻の敵駆逐艦 にレールキャノンを斉射し、標的を変えつつ更に二回斉射した。このとき、標的 が他の駆逐艦群と重ならないように、クラウスニッツの作ったプログラムで標的 を選択をしている。

その間、フェンリルも標的を変えつつ敵駆逐艦にレーザー砲の三斉射を浴せてい る。これで、一二隻の敵駆逐艦は一回ずつ斉射を受けた勘定になる。

本来ならその程度の砲撃ではあまり大きな効果は望めないのだが、今回は相当数 の敵に被害を与えた。これは砲撃開始の直前に目を覚ました新型の特殊機雷のお かげである。小型化に成功した指向性ゼッフル粒子発生装置を利用して、密集し た敵艦隊に誘爆を起こす機雷である。これによって至近弾でも敵に損害を与える ことができたのだ。

それぞれに三斉射を終えたクラウスニッツ艦隊は一斉にミサイルを発射した。目 標は三隻の敵巡航艦である。

ここまでの攻撃で敵の兵力は半減している。反撃は散発的であったため味方の損 害は軽微である。しかし、機雷を使った攻撃は既にネタ切れであるし、敵がよう やく秩序的な反撃を開始したので、徐々に味方の被害が目立ってきた。

敵のしつこい反撃に閉口したクラウスニッツは砲撃を加えつつ陣型を変化させて いった。フェンリルの反対側の空間を大きく広げたのである。これだけ叩けば逃 しても再反撃はないと判断した上でのことであった。

巡航艦一、駆逐艦三にまで減った敵はそちらに退却するという気配を見せていた が、やにわにフェンリルの近くに突撃し、フェンリルの横をすり抜けて行った。

「しまった!!」
敵の残存艦隊の行方には味方の輸送艦隊があった。


つづく