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「全艦反転。敵を追撃し、輸送艦隊に被害が出る前に敵を殲滅せよ」
あわてて指令を出したクラウスニッツだが、それで間に合うとは到底思えなかっ た。

念のために輸送艦隊の前面に機雷原を作っておいたのだが、使える機雷の大部分 を例の囮輸送艦に使ったため、機雷原に使った機雷は少ない。ほとんど効果は見 込めない。実際、機雷が少ないのに気付いた敵艦隊は機雷原の薄い部分を強引に 押し通ったが、駆逐艦が一隻大破したのみで、他は被害を受けながらも機雷原を 通り抜けてしまった。

「敵艦隊、友軍輸送艦隊を射程に収めました!!」
オペレーターの絶叫にクラウスニッツはなすすべもなく拳を握りしめて立ち上がっ ていた。そして、敵艦隊の砲門が開かれようとした正にその瞬間……。

クラウスニッツは自分の目を疑った。敵艦が次々と爆発していくのである。
「一〇時の方向より正体不明艦およそ一〇隻。敵に対して砲撃を加えています」
「と、いうことは、味方なのか?」
オペレーターの報告に気が抜けたようにクラウスニッツはつぶやいた。

「正体不明艦より通信。メインスクリーンに出します」
そこに写し出されたのは、二箇月前にも見た顔だった。
「すまん、遅くなった」
「ティーデマン……。どうしてここへ?」
「キルヒアイス提督に頼まれてな。ちょいと離れたところから見守ってたんだが、 いざ戦闘が始まって駆けつけようとしたら旗艦にしてた巡航艦がエンジントラブ ル起こしやがってな。しかたがねえから駆逐艦に乗り換えて来たもんで少々遅れ ちまった。すまん」
「いいよ、いいよ、最後には間に合ったんだから」
「やばそうだったから撃沈しちまったが、生捕らなくてよかったのか?」
「ああ。生捕っても黒幕を立証できない奴等らしいから沈めて正解だ。とにかく、 よく来てくれた。お礼はいずれ精神的に」
「いらねえよ」

それまで立ちっぱなしだったクラウスニッツは、ここでようやくほっとしたよう に座った。


つづく