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「やれやれ」
カール・ゲルハルト・クラウスニッツはそうつぶやいて肩をすくめた。
「今回は愚痴もでませんか」
「聞きたけりゃ、いくらでもこぼしてやるぞ、マートブーホ」
「い、いえ、遠慮させていただきます」

演習代わりの護衛任務で予想外の功績を立てたクラウスニッツは大佐を通りこし て准将に昇進した。さらに、後に「リップシュタット戦役」と呼ばれる一連の戦 闘に先立ち、キルヒアイス艦隊第一三独立分艦隊の副司令官に任命され、辺境星 域平定の任務に着いた。独立分艦隊とは一〇〇〇隻前後の分艦隊で、小規模の戦 闘に対しては独力で当たり、中規模以上の戦闘に対しては遊撃部隊として参加す る、辺境任務独特の戦闘単位を指す。

この任務のためにオーディンを出発して二週間後、第一三独立分艦隊司令官エー レンフェスト少将は事故で重傷を負った。キルヒアイス艦隊旗艦バルバロッサで の会議から帰るときに連絡シャトルのエンジンが暴走して、戦艦に激突したので ある。帝国歴四八八年、四月の終わり頃の出来事である。

キルヒアイスは分艦隊司令官代理にクラウスニッツを推薦し、長期の作戦で指令 系統に混乱が起こらないようにクラウスニッツを少将に仮昇進させる意向を示し た。クラウスニッツはこれを固辞するつもりであったが、独立分艦隊の特殊性を よく理解した者でなければ任せられないとキルヒアイスに直接説得され、三つの 条件付きで承諾した。一つは主な部下の人選を任せてもらうこと、二つ目は二隻 の戦艦の改装許可、残る一つは演習の許可である。

条件が三つとも受け入れられたクラウスニッツはさっそく部下の人選に取り掛かっ た。副司令官にティーデマン准将、副官にマートブーホ少佐、参謀には准将に昇 進して忙しくなったゾントハイマーの代わりに彼の「友人」を紹介してもらった。 ウィルソン中佐である。さらに、技術顧問としてブルク技術中佐を指名した。

「なんでこんなに過大な責任を背負わされるのかねえ」
「閣下が有能だからですよ」
「閣下はよしてくれよ」
「仮にも少将閣下なんですから閣下とお呼びするのは当然でしょう?」
「本当に仮だけどね」
「そろそろ皆さん到着される頃ですから、準備しときますね」
「うん、任せた」


つづく