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クラウスニッツは作戦立案に先立ってウィルソン中佐に敵の概要を調査させた。 ウィルソンは一般的な情報を直ちに入手し、これに自らのコメントを添えて翌日 提出した。

ローエワルト伯は帝国軍中将である。攻めれば苛烈、守れば鉄璧、当代きっての 名将であることをあらゆるデータが示していた。彼が中将に留まっているのは能 力によるものではなく、どんな上司にも盾突いてしまう難儀な性格のせいである。 彼の武勲の少なさはそのまま武勲を立てる機会の少なさであり、三度にわたる降 格は抗命罪によるものである。

数少ない機会に、彼は鮮かな戦術的手腕を示している。球形陣による防御から戦 機を捉えて変幻自在の攻撃に移る戦法を得意としており、単独で戦って負けたこ とはなかった。唯一の戦術的敗北は味方との連携プレイを失敗したときのもので ある。

一方、ブラウエベルク男爵は帝国軍少将である。攻勢に強い猛将で、「怒涛のブ ラウエ」の異名を持つ。愚直な性格と奇矯な言動で軽んじられがちであるがゆえ に少将に留まっているが、集中力において彼の右に出るものはそういない。

記録を見る限りでは戦局全体を見渡す能力は乏しいが、その分、目の前の敵を確 実に潰していく力強さがあり、その馬鹿力を利用して兵力を集中させての一点突 破を好む。また、直線に限れば「疾風ウォルフ」に匹敵する速さを持っている。

それぞれの推定兵力はローエワルト艦隊五五〇隻、ブラウエベルク艦隊三〇〇隻 であり、クラウスニッツ軍一〇二四隻に比べてやや劣勢である。しかし、ヒルデ スハイム伯領の造船所で約二〇〇隻の軍艦を建造中であると言われており、これ が使用できるとなるとクラウスニッツ軍をわずかではあるが上回ることになる。

加えて、ヒルデスハイム伯領には小要塞があり、そこに篭城されると攻め落とす のに三倍から六倍の兵力を必要とする。しかも、小要塞攻略には普通時間がかか るが、ローエワルトたちは時間が経つほど強力になっていくのである。

「結構、やっかいだな」
クラウスニッツは報告書を投げ出しながらつぶやいた。


つづく